一神教と疫病とコーポレートファイナンスⅨ│間違いだらけのコーポレートガバナンス(26)

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香辛料を求めて航海プランを練ったコロンブスの真のスポンサーは…(写真はイメージ)

スペイン王国経済を圧迫した香辛料の中間流通マージン

次に、コロンブスの航海が目指した課題解決(ペインポイント)について触れる。このコラムでは何度も書いているが、ペストをはじめとする疫病が蔓延する中世ヨーロッパにおいて、香辛料は単なる調味料ではなかった。

医薬品に準じる位置づけと価値を持っていた。だからこそインドから陸路を通じて供給される香辛料には、特にイスラム圏を通じて膨大なマージンが上乗せされ、欧州消費地での末端価格は暴騰し続けていた。それでも売れたのだ。

この陸路の終着点のひとつがイベリア半島であり、そこでの末端価格がどれほど法外なものだったかは想像に難くない。こうした中間流通マージンを排除したい。そのために西回りの海上ルートで直接インドに出向き、香辛料を買い付ける。

イベリア半島の地政学的な観点で見ると、これはどれだけリスクが高くても一考に値するプロジェクトだったといえる。中抜きビジネスはいつの時代でもイノベーター(改革者)によるディスラプト(破壊)の挑戦を受けるのだ。

ところがポルトガルでは、コロンブスのライバルともいえる航海者のパルトロメウ・ディアスがアフリカ大陸の南端を超えてインドに到達するルートの開拓に道筋をつける。この成果に基づき、ポルトガルのエンリケ航海王子は、アフリカ南端を喜望峰と命名し、インド航路開拓の可能性をこのルートに賭けた。

コロンブスはポルトガルにも自身の西回り航路プロジェクトを売り込む。しかし、喜望峰ルートの方が現実的だと考えた彼らがコロンブスのプロジェクトに投資することはなかった。その結果「逃した魚」は大きい。

余談になるが、筆者はグローバルに活躍する著名な投資家に「どんな時が一番悔しいか?」と聞いたことがある。意外なことに投資した案件の失敗よりも、「投資を断った案件がユニコーンになることが一番悔しい」という。自分の見る目の無さを突きつけられるからだそうだ。

(この項続く)

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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2022-07-01

コロンブスの新大陸発見には「真のスポンサー」が存在した。既に幅広く研究されているコロンブスの航海そのものより、この航海のシードインベスターでありリードインベスターであった宮廷ユダヤ人と同航海における彼の資本政策に焦点を当てて考察してみよう。