前回のコラムでは、原始キリスト教の宣教のため欧州に渡ったイエスの使徒たちと、離散して欧州に渡ったユダヤ教徒たちの、それぞれの足跡を辿(たど)った。

では、スペインにやってきたユダヤ教徒たちは、どのようにして経済的に自立し、定住していったのか。そして、どのような経緯で金融の発展に関わっていくことになるのか。今回から本題となるユダヤ教徒と企業金融(コーポレートファイナンス)の歴史について触れていきたい。

ユダヤ陰謀論は史上最悪のフェイクニュース 

ここで最初に明確にしておきたいことがある。それは本稿が「金融とユダヤ教徒」という極めて繊細なテーマにおいて、巷(ちまた)に溢(あふ)れるおかしな「ユダヤ陰謀論」をはっきりと否定する立場だということだ。

例えば「ロスチャイルド家が世界を牛耳った」とか、「ユダヤ教徒がフリーメーソンを支配し、そこから世界の金融機関を牛耳っている」など。荒唐無稽で完全に間違った「ユダヤ陰謀論」は枚挙にいとまがない。

さらに踏み込んでいうならば、そのようなフェイクニュースが現代にいたるまで一部で真剣に信じ込まれている背景を歴史に遡(さかのぼ)ると、中世欧州におけるキリスト教徒によるユダヤ教徒弾圧のはっきりとした足跡がある。そしてフェイクニュースを増殖させた加速器のひとつが、本稿のもう一つのテーマである「疫病(ペスト)」だった。それが本稿の立場だ。

ウイルスは集団において一定の割合が感染すると、それ以上広がらなくなる(集団免疫の獲得)。しかし、フェイクニュースはその逆だ。集団の一定割合が感染すると、それがそのまま集団における「真実」となって現実世界を動かしてしまう。これがフェイクニュースの恐ろしさだ。

残念ながら日本でも、いまだにおかしな「ユダヤ陰謀論」は蔓延(まんえん)している。それは収まるどころか、ネットという新たな加速器の登場でさらに感染力を増しているようにさえ思える。本稿で扱っているテーマは極めて繊細だ。筆者の拙い言語能力では意図が正確に伝わらず、思いがけず荒唐無稽な「ユダヤ陰謀論」の拡散に加担してしまうことを強く懸念している。あえて最初に立場を明確にしておきたい。