この連載コラムでは、「間違いだらけのコーポレートガバナンス」と題して、「コーポレートガバナンスの万能性」について懐疑的な視点から考察している。前回のコラムでは「株式会社は経済資源の最適配分や分配を実現するのか」という点について考察した。今回はこの連載の核となる「コーポレートガバナンスと企業成長、イノベーション」について説明しよう。

「株式会社が成長とイノベーションを実現する」神話

「株式会社こそ、成長とイノベーションを実現する人類最大の発明だ」と多くの人が信じている。だから、株式会社の仕組みが正しく機能すれば、企業ひいては社会全体の成長とイノベーションが加速すると考える人も少なくない。株式会社の仕組みを正しく機能させるには、「コーポレートガバナンス(株主統治)の強化」をすれば良い。そうであるならばコーポレートガバナンス(株主統治)を強化すれば、企業の成長とイノベーションは加速するはずだ。

この考え方は果たして正しいだろうか?筆者は重要な点において、必ずしも「正しい」とは言えないと考える。それがこのコラムの主題だ。先ずは「株式会社の起源」について触れる必要がある。少し回り道になるが、株式会社が発生した「大航海時代」(16世紀~17世紀)まで歴史をさかのぼってみたい。

大航海時代が生んだ元祖ディスラプトモンスター「東インド会社」

「株式会社とイノベーション」- このテーマで何か語れと言われたら、多くの識者は16世紀~18世紀前半に世界を支配した「東インド会社」を取り上げるのではないか。東インド会社は通常、「オランダ東インド会社」と「イギリス東インド会社」を指す。両社とも、ほぼ同時期(オランダ1600年、イギリス1602年)に設立された「世界初の株式会社」だ。

最も成功したのは言うまでもなく、イギリス東インド会社である。オランダはイギリスほどうまくやることができず、世界の支配者になることができなかった。従って本稿での東インド会社は、イギリス東インド会社を指す。

イギリス東インド会社を理解することこそ、コーポレートガバナンスの本質を考える上で非常に重要だ。この会社こそ、現代のGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)など生まれたての子猫のように可愛く思えるほどの元祖プラットフォーマーであり、元祖ディスラプター(破壊者)なのだ。

この東インド会社というモンスターを作り上げた大英帝国は、かつてはヨーロッパの強国に地位を脅かされる弱小国に過ぎなかった。しかし、イギリスはここで弱者の知恵(インテリジェンス)を振り絞って大逆転する。

本国イギリスから遠く離れた世界中の植民地を、武力と法制度で徹底的に「ガバナンス(統治)」することに成功し、植民地からの膨大な利益のすべてをイギリス(の株主)が独占する仕組みを確立したのだ。そして、自国語の英語を世界の共通言語にすることにも成功した。

「株式会社」と「英語」という2つの巨大プラットフォームで数百年も世界を支配し続け、その影響は現代の世界にも強力に作用している。我々はもっと東インド会社を理解する必要がある。では、東インド会社とはどのような企業だったのか。そのビジネスモデルを簡単に整理してみたい。