もう一つは東部地区でのロシア系住民の多さだ。ルハンスク州では39.2%、ドネツィク州では38.2%の住民がロシア系で、その多くがロシア軍を民族自決のための「解放軍」と見ている。彼らにとってはロシア軍を受け入れ、ウクライナ軍に抵抗することが「愛国者」としての行為となる。
東部地区以外の州で、「愛国者」がロシア軍相手に徹底抗戦しているのとは正反対の状態だ。ウクライナ軍が現状を打破してロシアの占領地に進撃できたとしても、現地に残っている大半の市民がロシア系では完全掌握に難渋するのは必至だ。
ロシア系市民による抵抗やロシア軍への協力、さらには「人間の盾」として機能することで、戦闘は複雑化する。ウクライナ軍の攻撃で大勢のロシア系住民が犠牲になれば、「人道主義」を掲げる欧米諸国にとっては都合が悪い。
米国政府がロシアによる占領地を容認した「新たな国境線」を確定することで紛争収拾を検討している背景にも、そうした事情があるようだ。
トルコが賛成に回ったことでフィンランドとスウェーデンのNATO加盟が現実的なものとなり、欧州での軍事的な「ロシア包囲網」は完成する。欧米諸国にとっては「十分な成果」であり、多大な犠牲を払ってまでロシアによるウクライナの占領地を奪還する意味は薄らいでいる。
東部戦線での大勝利がない限り、ウクライナにとっては厳しい終戦処理を迫られそうだ。
文:糸永正行編集委員
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