では、日本も政策金利を引き上げればいいのではないか?ところが、そうはいかない事情がある。日本の景気回復が遅れているのだ。実質GDPは米国が2021年4〜6月期、欧州が同10〜12月期にコロナ禍直前の2019年10〜12月期の水準を上回ったが、日本の実質GDPは2022年1〜3月期時点でも依然として-0.6%と下回っている。
景気が本格的に回復していない段階で利上げに踏み切れば、不況に逆戻りだ。とりわけ深刻な打撃を受けるのが、足かけ3年に及ぶコロナ禍で体力が弱っている中小企業だろう。
経済産業省は8日、コロナ禍で打撃を受けた中小企業への政府系金融機関による実質無利子・無担保融資の無利子部分を9月末申請分で終了すると発表した。貸し付けの申請件数がコロナ禍前と同程度まで減少しているのが理由で、コロナ支援策の役割を終えたと判断したのだ。
だが、ここで利上げをすると、思わぬ影響が出るのは避けられない。企業が融資を受けているのは政府系金融機関だけではない。民間金融機関は利上げが始まれば、借入金の返済に懸念がある企業に対する貸し剥がしなど、リスク削減のための行動に出るだろう。そこまで行かなくても、追加の運転資金融資には慎重になるのは目に見えている。
住宅ローン金利が引き上げられれば、東京など大都市圏で好調な住宅・マンション販売にブレーキがかかり、高騰を続ける住宅・不動産価格の暴落を招きかねない。バブル景気崩壊が繰り返されることになる。
経済のファンダメンタルズ(指標)も、通貨を大きく左右する。利上げで金利差が縮まり円高に向かったとしても、景気悪化の懸念が上回れば利上げ効果は吹っ飛んで逆に円安に振れる。日銀が政策金利の引き上げを発表した後に円が下落すれば、「底なし沼」の円安は避けられない。