【会計コラム】四半期開示義務の見直しについて
岸田政権の目玉政策の1つである四半期開示の見直しについて、金融審議会において議論がすすんでおり、金融商品取引法の四半期開示義務(第1・第3四半期)が廃止となりそうです。
ビズサプリの泉です。
ここ2年間ほど新型コロナウイルス感染症の話題が続いていますが、第7波が収束に向かい、人出が戻ってきたように感じます。ただ、この2年間の影響は大きく、私の顧客の中でも飲食業ではかなりの事業規模の縮小や撤退を迫られているところもあり、M&Aも活発になっているのではないかと思います。
そんな中、M&Aにおける重要な会計論点の1つであるのれんについて、海外ではその処理方法の見直しの検討が進んでいます。
日本基準においては、そもそも国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(USGAAP)と異なり、償却を行っているためあまり影響がないようにも思えますが、実務的にはIFRSの選択適用など結構影響がある会社もあるのではないかと思っています。
今回は改めてのれんついてお話したいと思います。
のれんの会計上の定義は、「取得原価としての支払対価総額と、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額との間に差額が生じる場合があり、この差額がのれん又は負ののれんである。」(企業結合会計基準98項)とされ、金額算定の方法について記載されているのみで、その本質については特段記載がありません。
のれんについては古くからあるテーマであり、私が会計士になった頃は「連結調整勘定」「営業権」という名前でしたが、その時からなんとなく超過収益力だという説明をうけていました。
本質については、日本基準のみならずIFRSやUSGAAPを含めて深い議論があるため、今回は割愛し、一般的によくいわれている「のれんは超過収益力である」という前提ですすめていきます。
上述のとおり、のれんの定義においては算定方法が決められており、支払対価総額が純額を上回るときは無形固定資産にのれんとして計上され、下回るときは負ののれんとして発生した期の損益として処理されます。
のれんは「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。」(企業結合会計基準98項)とあるものの、期間の算定方法について基準上具体的な記載はありません。ただ、「実務上、のれんの償却期間の決定にあたり、企業結合の対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能」(企業結合適用指針382項)とあるため、一般的には取得時の将来計画により投資回収できる期間として決定することが多いかと思います。
M&Aの際に買収対価の算定において、DCF法によるバリュエーションを行うことも多いため、買収時の資料を利用して期間を決定しやすいということもあります。
私が新人だった2003年頃は営業権や税務上の資産調整勘定の償却期間が5年であったため「なんとなく5年償却ならいいか」、みたいなこともありましたが、最近では根拠をもって償却期間を決めなければならないようです。
特に監査法人に説明する場合は買収時に将来計画の確実性の説明が必要となったり、その事業計画や償却費の損益影響を経営層すり合わせる必要があったりと、なかなか現場では苦労が絶えないのが実感です。
ちなみに、のれんの即時償却の是非については、企業結合会計基準の設定時に議論した結果、過度に保守主義であり、また、のれんの償却費が発生しないため、企業結合の結果がその後の営業損益には反映されず、投資家への情報としての有用性に問題があるということで基本的に認められなかったようです。
のれんは無形固定資産として償却を行うとともに減損会計の対象となりますが、そもそものれんそれ自体では独立したキャッシュ・フローを生むことはありません。
そのため、のれんの帳簿価額を帰属する事業に合理的な基準により分割し、共用資産と同様にのれんの帰属事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた、より大きな単位で判定を行います。
このため、理論的に考えると、子会社買収時ののれんについては買収した子会社の連結グループ全体における帰属事業を明確化して、帳簿価額を割り当てるべきですが、実務的にはその取得した企業の損益で判定を行うことが多いかと思います。
ただ、フリー株式会社は減損判定のグルーピングを取得企業ではなく、プラットフォーム事業セグメントとして、2022年6月に新規取得した子会社にかかるのれんを含めてすべて減損し、外観的には即時償却と同じ結果となりました。また、適時開示や決算説明会資料においても「のれんの減損は個別事業の実績に起因するものではございません。」との記載もあることから、グルーピングの妥当性及びのれんの発生年度の一括償却の2点において、会計士としては大変興味深い事案でした。
米国財務会計基準審議会(FASB)では2018年からのれんの会計処理の検討が開始され、2020年12月にはのれんをデフォルト期間10年定額法で償却する方向で検討されてきましたが、2022年6月に国際会計基準審議会(IASB)の議論を注視するということで、一旦取り下げられました。
IASBでは年内にプロジェクトの方向性をだすべく活発に議論が続けられており、9月には英国エンドースメント審議会(UKEB)が公表した研究報告書が取り上げられたそうです。
当該研究報告では、「のれんの耐用年数の見積りに基づく年次の償却」と「減損の兆候がある場合のみの減損テストの実施」を組み合わせ、かつ「企業買収に関する経営者の責任を強化するための開示」求める「ハイブリッド・モデル」が取り上げられたそうです。(経営財務3575号)
もしIFRSにおいてものれんを償却するとなった場合、日本のIFRS適用企業では、国際的な資金調達、海外の取引所への上場といった目的ではなくのれんの非償却を図って適用している場合も少なくないと思われることから、新規のIFRS適用動向にも影響があるのではないかなと思います。
実際PEファンドによるIPO案件の場合、企業規模や事業範囲が明らかにIFRSに適していない会社に適用している案件も見受けられます。ただし、この点、証券会社や取引所ものれん純資産倍率があまりに高い場合は解消を促しているという話もきくことから、いずれにしてものれん非償却を目的としたIFRS適用は減るかもしれません。
文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.161 2022.10.19)より転載
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