【会計コラム】複雑化する会計制度について考える

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3.哲学的思考ー演繹的思考を鍛えよ

IFRSでのプリンシプルベースと従来の日本基準のルールベースの考え方は、哲学的な言葉を借りると、プリンシプルベースは「演繹」的な思考、ルールベースは「帰納」的な思考と言えます。「演繹」は、普遍的な原理から論理的に推論し、個別の事柄を導く方法を言い、「概念フレームワーク」として財務報告の基本的な諸概念を示し、そこから個別の基準を開発するIFRSの発想は、「演繹」的なアプローチと言えます。

一方で従来の日本基準は、企業会計原則はその中で、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められるところを要約したもの、と言っていることから明らかなように、「帰納」的なアプローチに基づく基準と言えます。

哲学的には、「演繹」的な思考も「帰納」的な思考も、どちらかが優れている訳ではなく、考え方のアプローチの違いなので、時と場合によって使い分けられるものです。ただ、元々の文化というか、国民性として、日本人やアジア人は帰納的に物事を考えるのに対して、西洋人は演繹的な思考をする文化で育っているそうです。そのため、IFRSは日本人にとって、思考的に受け入れにくいものなのかもしれません。よりIFRSを深く理解し、使いこなすには、「演繹」的な思考を鍛えるのがいいのではないかと思います。

なぜこのような話をするかというと、最近「哲学」にまつわる書籍や雑誌の特集を、本屋でよく見かけるようになりました。哲学とは、デジタル大辞泉(出典:小学館)によれば、「-世界・人生などの根本原理を追求する学問」とあり、平たく言えば、『なぜ』と問い続けながら、物事の本質をとらえようとすることだと言えます。そのために、様々な思考スキルが必要となります。また人に説明するには、論理的な思考が要求されます。

論理的な思考力は、人を説得したり、批判をするためのビジネススキルとして、今までも着目されていました。ここに来て見直されているのは、なぜ?、と「問い」かけることの重要性です。企業活動は問題や課題の解決の繰り返しですが、問題や課題がはっきりしていれば対策も打てますが、最近は問題や課題そのものが何かを見つけるのが難しくなってきています。

現代においては、人々の価値観を始め、様々なものが多様化しています。またそれぞれが複雑に関連している時代です。これらを形容する言葉として、VUCA(ブーカ)が言われています。

これは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの英単語の頭文字から取った言葉であり、まさに今の時代を象徴しています。このような時代だからこそ、問題解決のスキルとして、また古代ギリシャ時代以降の、約2,500年にわたる賢人の叡智として、哲学が改めて見直されているようです。

なお、哲学というと、論理的な思考に傾きがちのように見えますが、古代哲学者のアリストテレスは、人を説得するには、「ロゴス・パトス・エトス」が重要だと説いたそうです。ロゴスは論理(=ロジック)ですが、論理だけで人は動かせず、合わせて情熱(パトス)と倫理(エトス)が必要だと言うことです。

まさに真理であり、コーポレートガバナンスにおいて、経営者に是非持ってもらいたい3要素だと思います。

文:花房 幸範(株式会社ビズサプリ パートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.098 2019.6.12)より転載

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