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【会計コラム】複雑化する会計制度について考える

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Photo by Giammarco Boscaro on Unsplash

2.正しい会計基準とは何か?

では、IFRSの方が優れているとして近づいていく方向性なのであれば、なぜ全ての上場企業にIFRSを適用しないのか、IFRSを適用している企業とそうでない企業は物差しが違うので、投資家が比べられないのではないか、と言った声もあります。またのれんの会計処理に代表されますが、規則償却を求める日本基準の方が、財務諸表の健全性が増すという意見もあり、国際会計基準審議会(IASB)が、のれんの償却を検討し始めており、一体会計基準として何が正しいのか、という疑問もわきます。

これは、もっと大きな時間軸で会計基準の変遷を辿ると、正解が少し見えて来る気がします。つまり、元々会計は「現金主義」からスタートしています。

複式簿記会計のスタート時から発生主義はあったという話もありますが、複式簿記が着目されるようになり始めた中世ヨーロッパでは、航海のプロジェクト毎の収支計算が重要であったこと、事業も小規模なものが多く、取引も現金取引が多かったため、現金主義で十分でした。

そこから、掛け取引や手形取引が増大し、企業規模が大きくなって利害関係者も増えて会計期間ごとの正確な損益計算の必要性が出てきたり、また産業革命以降設備投資額も巨額になって減価償却の重要性が増した、あるいは退職金制度が作られる等、経済活動の複雑化とともに、発生主義の必要性が徐々に大きくなってきた歴史があります。

そして近年は、機関投資家の発達とともに、投資対象としての企業評価の重要性が増したこと、M&Aが活性化してきたこと等が、企業そのものを取引対象として時価評価する重要性が高まってきたことにより、時価主義に偏重してきていると言う見方もあります。また会社を継続企業と見ず、清算前提であれば、清算価値としての時価評価が正しい会計基準ということになります。

つまり、会計(学)とは社会科学であり、物質的な正確性のような、唯一の正解がある自然科学と異なり、社会科学は時代により、また使い手の目的や価値観によっても、正しさが違うものなのです。

但し、会計がお金を扱うものである以上、1つだけ真理と言えるものがあります。それは、会社が設立されて(株主から出資を集めて)から清算される(全ての財産を現金化して株主に払い戻す)までの収支と、同期間の損益合計は必ず一致するということです。

損益計算書は、原則として未来永劫存続する、継続企業を前提として人為的に、通常は1年間で会計期間を区切り(最小単位としては日次決算の1日単位)、利益を計算するためのものです。それらの各会計期間を繋ぐための一時的な財務諸表が、貸借対照表です。全期間の収支と損益が一致するという真理を前提にすれば、極論すると会計処理としてどの方法を用いたかは重要ではなく、同じ方法を毎回適用するという継続性こそが最も重要だと言えます。

ましてや、プリンシプルベースで、各社の会計処理方法や注記を含めた開示は、同業種であっても乖離する可能性は十分あります。ルールベースでは、開示を含めて横並びで、金太郎あめを切ったような内容であったため、財務諸表の読み手に取って、企業間の比較は容易でした。

IFRSでは、読み手が会社の会計方針をしっかりと理解(そのために会計処理の方法については詳細に記述されます)しなければならない上、注記の形式も各社まちまちであるため、ルールベースに比べて、企業間の比較可能性を犠牲にしていると言えます。その分個々の会社の状況を深く分析し、トレンドを比較するためには、各社の会計方針を細かく記載し、それらを継続して適用することが重要なのです。

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