アベノマスク「第4の受注業者」にユースビオが入った本当の理由

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無謀な全戸配布がブローカー調達へ走らせた

一方で、買い手から「どうしてもこの商品を仕入れたい」との依頼を受けて調達する「買い」の仕事もある。こうしたケースでは品不足の商品を調達することが多いため、「売り」とは逆に割高の価格で取引されるのが一般的だ。今回のマスク調達は「買い」の仕事である。

国内生産メーカーへの政府発注価格は1枚120〜150円程度とされる。ユースビオは同135円と妥当に見えるが、ベトナムからの輸入品であることを考えれば高めの価格といえる。しかし、ブローカーとしても極端な品不足の商品を調達してくるのだから、割高になるのはやむを得ない。

そもそも買い手がブローカーを頼るのは、価格よりも「早期の商品調達」が狙い。いくら高かろうが、手に入るのならば購入する。そういう「流通ルート」なのだ。厚生労働省も突如として早期の全戸配布が決まり、マスク調達に苦労したのは想像に難くない。

厚労省は「迅速に供給できる能力があるかを重視して検討し、業者を選定した」と、発注の経緯を説明。要は国がユースビオを選んだ理由は「そこにマスクがあったから」の一点に尽きる。

ユースビオも「ベトナム製マスクを福島県や山形県へ売り込んでいたが、全戸配布を受けて国と契約した」としており、両者の説明は一致する。両県への売り込み情報を察知した厚労省が、同社に調達を働きかけたのも無理もない。

無理なマスク調達計画で、ブローカーに頼らざるを得ない状況に…

そもそもブローカーが取り扱うのは主に中小企業相手の突発的な小口取引で、大企業や自治体、ましてや政府が顧客になるのは異例中の異例。政府が取引を極力隠そうとしていたのも、ブローカーからの調達という「非正規ルート」に頼らざるを得ない苦境を明らかにしたくなかったからだろう。

さらにはユースビオの経営者が2018年に脱税容疑で有罪判決を受けていたという「過去」もあった。つまり政府は「マズいから隠した」のではなく、安倍首相が目玉と位置づける施策のドタバタが「みっともないから隠した」可能性が高そうだ。

政治家も官僚も、ブローカーのような個人事業主と「癒着」するメリットはない。政府としては「何が何でもマスクを確保したかった」のだ。厚労省によると、ユースビオが調達したマスクに不良品はなかったという。マスク価格も現状では法外なほど高いわけではない。

今回のマスク調達の最大の問題は、安倍首相がコロナ対策の決め手とするマスクの全戸配布が、メーカーや商社などの「正規ルート」だけでは実現不能なほど、無謀で無計画だったということに尽きよう。ある意味「癒着」よりも怖い事実ではある。

文:M&A Online編集部

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