蚕都・上田に息づく常田館製糸場|産業遺産のM&A

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1905年に建てられた国内に現存する唯一の木造5階建ての繭倉庫

守破離とM&Aを同時進行

正門を入って右手には、奥帳場兼創業者の住宅、まかないの倉、炊事場などの建物が並ぶ

笠原工業上田工場は操業を休止したといっても、明治・大正・昭和と長い歴史を刻んだ製糸工場建屋や製糸設備・施設は残ったままだ。笠原工業では、日本の蚕業史を後世に伝えるべく、上田工場建屋・施設を「絹の文化資料館」としてオープンした。

そして笠原工業自体が積極的なM&Aに突き進む。1981年に創立した関連会社のポリッシュ技研という会社を20年後の2002年に経営統合し、2007年には笠原工業を持ち株会社化した。このとき、上田・須賀川(福島県)・山梨にあった同社3工場を分割し、上田にある笠原工業は笠原工業株式会社(上田)と称するようになった。

2000年は同社の創業100周年だった。まさにその前後にかけて蚕都・上田の笠原工業では経営統合・持ち株会社化・会社分割と大きなM&Aを進めていたのである。

蚕業の歴史を深く刻む繭倉庫群

2007年、上田工場の繭倉庫群が近代化産業遺産に認定されるものの、2008年にはその上田工場の建物解体を始めている。おそらく、笠原工業内では何を残し、何を解体・移築するか、さまざまな角度からの議論が繰り広げられていたのだろう。2010年には同社繭倉庫群15棟が上田市文化財に認定され、さらに2012年には7棟が国の重要文化財に指定されることとなった。

どのような産業も残すべきものは残し、後世に盛衰の様相を伝えなければならない。笠原工業では2014年、残された上田工場の運営をNPO法人「絹の文化・蚕都常田館」に委託するかたちを採用した。それが現在の常田館製糸場である。

現在は、倉庫の一部を同社発泡スチロールを保管する国内最高層の5階建て繭倉庫のほか、3階建て繭倉庫、ギャラリーなど多目的スペースにも使われる5階建て鉄筋繭倉庫や4階建て繭倉庫、選繭場があり、常田館と呼ばれる事務所兼館主住宅などが整然と並んでいる。

常田館製糸場は120年の歴史のなかで、時代の荒波に揉まれながら増築・取り壊し・焼失・改築・移転、さらに用途変更などの紆余曲折を経て今日に至り、多くの見学客を迎えている。

文:M&A Online編集部

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