1974年2月24日、医薬品業界に大きな衝撃が走った。「え、なんで? どうしたの?」と、ぽっかりと穴の開いたような気持ちになる人もいたはずだ。滋賀県近江八幡市に本社を置く近江兄弟社の経営破綻。その社名は知らなくても、当時、同社の主力商品であった『メンソレータム』を知らない人はまずいないだろう。肌を守る塗り薬。それは近江兄弟社の主力商品を超えて、どの家庭にも1つは置いてある“国民常備薬”といえた。

その主力商品を持ってしても、当時1973年に起きた第1次オイルショックの影響は大きく、近江兄弟社の経営は傾いた。特に、同社が一事業として進めていた不動産部門の採算の悪化がボディーブローのように効いていたようだ。

近江兄弟社は再起の望みを賭けて会社更生法を申請した。それから約45年が経つ。「あの白い容器に描かれた可愛いナースの絵(リトルナースという)もなくなっちゃうの?」。幼い頃、そんな思いに駆られた人も、いまや初老の域に達しているだろう。

「メンソレータム」めぐるM&Aの攻防

実はその「メンソレータム」は目薬の「ロート」や胃腸薬の「パンシロン」でおなじみのロート製薬<4527>に譲渡され、現在は塗り薬、リップスティックなどを製造販売している。リトルナースの絵柄・デザインも顕在だ。

ロート製薬の「メンソレータム」と近江兄弟社の「メンターム」

そして、近江兄弟社も現在は「メンソレータム」の商標やリトルナースの絵柄はロート製薬に譲ったものの、再興を果たし、「メンターム」という塗り薬などを販売している。とても似た商品だが、「メンターム」はメンソレータムの略称として1967年に商標登録してあったので、活用できた。

ちなみに、近江兄弟社の破綻後、「メンソレータム」の販売権はもともとの製造元である米国メンソレータム社にいったんは戻ったが、その後、ロート製薬が譲り受け、さらに1988年にはメンソレータム社本体もロート製薬に買収されている。

「メンソレータム」そして「メンターム」は紆余曲折のM&Aに翻弄されたが、“常備薬”として日本に広く根づいている。その陰には、近江兄弟社の創業者の遺志を継ぐ思いもあったのではないだろうか。その創業者とは、日本各地に洋風建築とその文化を伝承していったウィリアム・メレル・ヴォーリズである。