③専任条項・テール条項の留意点

仲介契約・FA契約における専任条項(並行して他のM&A専門業者への依頼を行うことを禁止する条項)及びテール条項(契約終了後一定期間(テール期間)内に、譲り渡し側が譲り受け側との間でM&Aを行った場合に、当該契約等は終了しているにもかかわらず、当該M&A専門業者が手数料を取得する条項)の解説及び留意点について述べられている(57~59頁)。これらの規定を設けることは実務上一般的であるが、問題点について公に議論されることは本ガイドラインが初めてではないか。

とりわけこの箇所では、専任条項においてセカンドオピニオンを求めることは例外的に許容するべきであること、契約期間を6か月~1か月程度とするべきこと、テール条項においてテール期間を最長2年~3年とするべきことを提言し、もって仲介契約・FA契約の適正化を目指していることに意義があるといえる。

④税理士の役割

本ガイドラインでは、税理士の中小企業M&Aにおいて期待される役割について、税務申告、ストラクチャーの税務上の検討、税務DDといった税理士の本来的業務にとどまらず、コーポレートガバナンス構築支援やバリュエーションなど、従来弁護士や公認会計士が行っていたものも掲げられており、現在担っている役割と比較してかなり広範となっている点が特徴的である。

これは、「税理士は中小企業の経営者にとって身近な相談役であり、顧問として中小企業の実情を把握し、中小企業の税務・会計にも精通していること等から、顧問先に対して、税務・会計に関する支援に限らず、経営支援、金融支援といった多面的な支援を行い得る立場におり、中小M&Aにおいても積極的に支援することが期待される」という、中小企業における税理士の実際の役割[3]を踏まえて提言されたものと言える。

*[3]例えば、中小企業M&Aにおける法務DDでは、対象会社の株主総会議事録及び取締役会議事録は、顧問税理士事務所が作成しているという実態にしばしば遭遇することがある。

もっとも、中長期的には、中小企業M&Aにおける中小企業側でも、一般的なM&A実務と同様、バリュエーションは公認会計士、契約関連は弁護士といったような専門職業人の本来的な使い分けがなされることが望ましいと言えよう。

⑤弁護士の役割

「中小M&Aにおいては、法的な観点での検討が不可欠であり、弁護士が法務の専門家として、株式譲渡や事業譲渡といった手法の選択、譲渡スキームの検討・策定等、全体的な手続進行のコーディネートを行うことがある」という指摘がある(77頁)。

たしかに、適切なアドバイザー不在のため、やむを得ず弁護士が「全体的な手続進行のコーディネート」を担わざるを得ない場面も実際には起きる。もっとも、弁護士は財務的・商業的知見を持ち合わせていないことが通常であるし、法務的見地から行うべきことも多いことから、「全体的な手続進行のコーディネート」は、適切なFA又は仲介者に委ねることが本来であるように思われる[4]。

*[4]なお、依頼者である当事者との契約交渉等の内部打ち合わせには仲介者も進行管理等の理由で同席することが多い。これ自体はやむを得ないことではあるが、本ガイドラインでも頻繁に指摘されているとおり、仲介者は利益相反のリスクがあることから、一方当事者の代理人である弁護士としては、必要に応じて依頼者のみとコミュニケーションをとることも検討するべきであろう。

また、債務超過企業に対する中小企業M&A支援において、「譲り渡し側経営者からのヒアリング等を経て資金繰りへの懸念がある場合には、資金繰り表を作成の上、可能な限り月次(月繰り)に留まらず日次(日繰り)レベルまで資金繰りを具体的に把握し、資金ショートの時期を確認する必要がある。

その際、表面的な資金繰りの把握に留まらず、依頼者からの相談の時点において既に未払が生じていないか等、実質的な内容まで踏み込んで把握しておくことが望ましい」など、弁護士に依頼者である中小企業側の資金繰りに配慮することが期待されている(79~80頁)。

大型倒産事件の管財人など、一部の事業再生を取扱分野とする弁護士であれば資金繰りへの関与も期待できるのかもしれないが、法律の専門家である弁護士一般にこれを期待するのは酷のように思われる。むしろ、これは公認会計士に期待するべき役割ではなかろうか。とはいえ、債務超過企業に対する事業再生M&Aは、現在のコロナ禍で今後急増していくことが予想される。この種の類型の取引における弁護士の役割の重要性は言うまでもないところであろう。

なお、中小企業M&Aにおいては、中小企業側における弁護士登用への啓蒙が大きな課題といえる。M&A関連契約のレビューはもちろん、本ガイドラインでも指摘されている株式の整理・集約支援や、事業用資産等の整理・集約支援(77~78頁)は、M&Aの成功にとって重要性が高い一方で、前述のように第三者の利益も絡むために実現が困難であることから、中小企業側の弁護士の活躍が期待される。

⑥M&Aプラットフォーマー

本ガイドラインは、近年利用が増加しているM&Aプラットフォームについても言及していることも大きな特徴である。課題として、サービス内容の明確化、掲載案件の信頼性が掲げられている。M&Aプラットフォームは、小規模であり仲介者やFA等の支援機関を登用する余裕がない案件で主として活用されるため、取引の適正性が損なわれる可能性を有する。今後さらに普及するに伴い、そのあり方についてより議論が深まることが期待される。

最後に

現在、コロナ禍によりM&A取引が急激に減少している状況にあり、かつ、緊急事態宣言の収束が見えず、先行き不透明のため、新規のM&A案件着手も当面様子見の状態が継続することが予想される。しかし、円滑な事業承継という観点からは中小企業M&Aの重要性はこの状況にあっても変わることはない。むしろ、コロナ禍の影響により企業価値の劣化が急激に進むのであれば、できる限り早期にM&Aによる事業承継が望ましいと言える。

中小企業M&Aの関係者としては、このような非常事態下にあっても中小企業M&Aの活発化を目指しつつ、一方で、新たに生まれた本ガイドラインを尊重し、取引のこれまで以上の適正化を目指すことが期待される。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

参考URL
中小M&Aガイドライン|経済産業省
事業引継ぎポータルサイト|中小機構
公正なM&Aの在り方に関する指針|経済産業省