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ベストセラー ピケティの『21世紀の資本』を映画で学ぶ

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ベストセラーの経済書『21世紀の資本』を原作者自らの解説で映画化

フランスの経済学者トマ・ピケティが著し、世界的なベストセラーとなった経済書「21世紀の資本」が映画化された。ピケティ自身が監修から出演までこなす本作は、さまざまな映像を駆使しながら現代の「格差社会」に至る歴史の流れを分かりやすく解説し、未来に向けた変革の道筋を示そうとする経済エンタテインメントである。

著名な経済学者やジャーナリストに取材

「資本」と「社会」の関係性を紐解くために、本作は18世紀に遡り世界各国の出来事や歴史を振り返る。主演のピケティをはじめ著名な経済学者やジャーナリストらがインタビューに応じ、過去に社会を揺るがせた出来事と経済(資本)の結びつきを解説する。

英国の産業革命、フランス革命、植民地支配、奴隷制、世界大戦、大恐慌、再びの大戦と中産階級の台頭、オイルショック、自由放任の資本主義、リーマンショック…。格差社会と言われる現代に至る道程が手際よく俯瞰されていく。

そして、いま。働いても豊かになれないのはなぜか。格差はなぜ無くならないのか。人々の疑問に正面から向き合い、膨れ上がった資本主義に警鐘を鳴らすピケティは、富の再分配に向けた改革をあらためて提起する。

社会情勢や大衆の境遇を過去の映画作品とともに紹介

ピケティが著した「21世紀の資本」は2013年にフランスで出版されるとすぐに英語をはじめ世界35カ国で翻訳され、累計300万部を誇る世界的なベストセラーとなった。日本語版も2014年に刊行されている。

原作は700ページもあり、しかも難解。完読は至難の業とも言われる同書をいかに映像化するか。ジャスティン・ペンバートン監督は過去の映画作品を取り込み、その当時の経済状況が社会や大衆にどのような影響を与えているかを映像で示そうと試みた。

例えば、金融・経済を主題とした『ウォール街』(1987年)で、主人公のゴードン・ゲッコーが株主総会で発する「Greed is good.(貪欲は善である)」のシーンを引用した。19世紀初頭のフランス王政時代を舞台とした『レ・ミゼラブル』では、「Everyone's equal when they're dead.(死んだらみな平等さ)」と少年が歌うシーンが富を持たない民衆の辛い境遇を鮮やかに印象付けた。ほかにも『プライドと偏見』や『ザ・シンプソンズ』といった映画やアニメの場面やセリフを効果的に挟み込んだ。

ピケティが実証した理論を難しい数式など一切使わずに映像で表現しようとする監督の試みは成功したと言えるだろう。

「この映画はわたしの本の素晴らしい増補になった」(トマ・ピケティ)

ピケティは同書で、過去300年間のデータをもとに富裕層と貧困層の格差は広がっていることを実証した。それが歴史的に見て資本の収益率は経済の成長率に比べて高いという、有名な不等式「資本収益率>経済成長率(r>g)」である。

この構図が社会的地位の固定化と人々の区分や対立をもたらすと考えるピケティは、「現代は第一次世界大戦前の不平等な時代に戻ってしまっている」と警鐘を鳴らし、格差拡大と永続化を避けるには累進資本課税が必要と力説する。

7年前のベストセラーを映画化するねらいを、本作に寄せたメッセージの中でピケティはこう語っている。

わたしは大の映画好きだ。パリでは暇さえあれば散歩がてら近所の映画館に通っている。少なくとも週に2回、ジャンル問わずだ。だからジャスティン(・ペンバートン監督)がこのプロジェクトをたずさえて訪ねてきた時にこう思った、これは「21世紀の資本」の読者以外のさまざまな人々、もっと広範な人々に届けるのにうってつけの方法じゃないか、と。また何より、これは書籍とは別な言語を使って「21世紀の資本」を語るのに最良の方法じゃないか、とも。もちろんわたしは社会科学の言語を信じている、でも同時にそれだけでは不十分であるとも思うのだ。小説やコミックス、ポップカルチャーやアートの言語があって初めて完全なものになるのだと思う。さて、わたしは映画監督にはなったわけではない。わたしは作家であり社会科学者だ。しかしこの映画はわたしの本のすばらしい増補になったと信じている。わたしの本をこうしてスクリーンに届けてくれたジャスティンと製作チーム全員に感謝を贈る。(公式サイトより引用)

世界の現状を見て、ピケティはあらためて自らの主張を世の中に届けたいと考えたのだろう。本作に登場するピケティからは、現状を変革して未来を開きたいという熱意と意欲が読み取れる。

その主張に与するかどうかはともかく、伝えたい思いが溢れるドキュメンタリー映画は面白い。「この映画はわたしの本のすばらしい増補」と言うからには、書籍で読むのとは違う魅力があるということだ。すでに同書を読んだ人も、読んでいない人も一見の価値がある力作である。

文:堀木三紀(映画ライター)

21世紀の資本
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<作品データ>
『21世紀の資本』
監督:ジャスティン・ペンバートン
監修:トマ・ピケティ
製作:マシュー・メトカルフ
編集:サンディ・ボンパー
撮影:ダリル・ワード
音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル
原作:トマ・ピケティ「21世紀の資本」(みすず書房)
出演:トマ・ピケティ ジョセフ・E・スティグリッツ 他
提供:竹書房
配給:アンプラグド
日本語字幕:山形浩生
2019年/フランス=ニュージーランド/英語・フランス語/ 103分/カラー/シネスコ/5.1ch
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公式サイト:https://21shihonn.com/
3月20日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次公開

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