『冬薔薇(ふゆそうび)』阪本順治監督インタビュー「家業を継げ」といえない現状

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©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

『冬薔薇(ふゆそうび)』阪本順治監督 単独インタビュー

主人公のリアクションに家業を継がなかった自分を反映した

親子関係がうまくいかず、不良仲間とつるんで中途半端な生き方をしてきた主人公・淳の寄る辺なさ。映画『冬薔薇(ふゆそうび)』は阪本順治監督が40歳も年下の若手俳優・伊藤健太郎のために書き下ろしたオリジナル新作だ。

淳の父親を演じたのは小林薫。淳の母親には余貴美子。さらに眞木蔵人、笠松伴助、伊武雅刀、そして石橋蓮司らベテランが脇を支えている。

1989 年のデビュー作『どついたるねん』以来、一貫して心にさまざまな「欠損」を抱えた人間を描き続けてきた阪本順治監督に物語の着想や作品への思い、自身と父親との関係などについて語ってもらった。

「家業を継ぎたくなかった」と話る阪本監督
「家業を継ぎたくなかった」と話る阪本監督©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS、堀木三紀

ガット船の在り様は今の日本そのもの

――本作は伊藤健太郎さんをイメージして当て書きしたオリジナル脚本とのことですが、物語の着想はどちらから得たのでしょうか。

この作品の始まりは映画会社からの「伊藤健太郎で1本撮ってみませんか」というオファーでした。そこでまずは「本人に会いたい」とお願いして、2人きりで2時間ほど話をし、その日の手触りをもとにプロットを書き始めました。

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

――主人公の実家はガット船で埋立て用の土砂を運ぶ海運業を営んでいますが、ガット船については本作で初めて知りました。

ガット船で埋め立て用の土砂を運んでいる人たちがいることは僕も『人類資金』(2013)のときに知りました。あのときに使ったのは1シーンだけでしたが、その後も興味は続いていて、いつかもう少し丁寧に触りたいと思っていたのです。

人物を描くときには、その人物の生業も考えます。無職なのか、ちゃんと職に就いているのか。仕事をしているなら、それはどんな仕事なのか。会社員と医者ではバックボーンが違ってくるのです。ストーリーラインが構築できていない時点でガット船を親の生業に決めて、そこをこの物語の拠り所にしました。

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

――ガット船について改めて取材をされたそうですね。

以前とは埋め立ての工法が変わってきて、膨大な量の土砂がなくても以前と同じ広さの埋め立て地ができるようになっていました。海底から砂で埋めていくのではなく、鉄板を浮かせて、その上に砂を載せるのです。ガット船は仕事が減り、廃業した人も少なくありません。

そんなガット船の在り様は今の日本そのもの。技術の進歩で需要が少なくなった業種はガット船以外にもたくさんあります。親が子どもに対して積極的に「家業を継げ」といえる状況ではない。映画はあくまで人間の物語を紡いでいますが、そういうことも含めて描きたいと思いました。

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

自身の後継者問題を反映ー子どもに嫌われたくないから味方のふりをする

――主人公は後継者問題で父親と気持ちがすれ違いますが、主人公以外にも親が亡くなり学業を半ばで諦めて家業を継いだ者、親が遺した店を継ぎたいと思いつつ諦めた者がいました。

『半世界』(2019)で稲垣吾郎くんが演じた主人公の炭焼き職人は家業を継ぐことで自分の父親に反発していましたが、このところそういう話が続いています。それは自分の親を亡くしたからでしょう。

実家は代々仏師で、祖父が戦前に小売も始めて、大阪で仏具仏壇商を営んでいました。家業を継ぎたくなかった僕は親の望みを蹴って映画の世界に入ったのです。お店は父親が病に倒れると立ち行かなくなって廃業しました。そういう実体験も盛り込んでいます。

――お父様とのやりとりがこの作品に色濃く反映しているのでしょうか。

親父と真剣に話し合ったことはなかったですね。「東京に出て、映画監督になる」と言ってもそんなに簡単になれるものじゃない。「いつか挫折して帰ってくるだろう」と思っていたのでしょう。お袋は「ヤクザな業界に行くな」と言ってきましたが、親父は何も言いませんでした。

子どもへの接し方、叱り方がわからない人でした。お袋にはいろいろ言わせるけれど、自分は嫌われたくないから、無言を貫く。小林薫さんが演じた主人公の父親にうちの親父を投影しています。それに対する主人公のリアクションは自分そのものでしたね。親父が亡くなってから、昔のことを思い出して、セリフに活かしたりしています。

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

――主人公親子はすれ違ったままでした。監督ご自身はいかがでしたか。

親父は商いをやっていたから朝は7時くらいからシャッターを開けて、夜も9時くらいまで開けている。僕は晩飯を爺さん婆さんと食べていて、親父と一緒に食事をすることはほとんどありませんでした。親父は僕がどう育ってきているかを見ているけれど、僕は親父の人生のことをよく知らないのです。子ども時代から戦争を超えて今に至るまで、例えば、思春期はどんな感じだったのか、何が好きで何が嫌いだったのか。許せるものと許せないものは何なのか。

東京に出てきてしまうと大阪は遠い。なかなか会う機会はありませんでした。それでも親父が亡くなる1〜2年前は大阪で一緒に暮らしていました。ご飯を食べながら酒を飲む。こういうことをもう少し早くからやっていればよかったと今になって思います。でも僕の映画は見てくれていたから、応援してくれていたんじゃないかな。「こいつはもう店を継がない」ということもわかってくれていたと思います。

店を畳んだのは不景気もありますね。物が売れなくなった。しかも今は仏壇仏具もネットで買えます。弔いの仕方や考え方も昔とは違ってきて、仏壇を用意するのがご先祖を弔う気持ちの表れではなくなってしまいました。

――公開を前に、今の思いをお聞かせください。

映画を撮るときに俺がやる仕事は決断すること。監督は思考を止めてはいけません。小道具1つにしても決めるのは俺の仕事です。いつもだったら10ヶ月くらい掛けて撮影に入るのですが、今回は半年しかなく、即断する必要がありました。撮影に入れば、夜もその日の振り返りと翌日の準備をしなきゃいけない。この年齢にはハードな現場でした。

今回は伊藤健太郎ありきの作品です。健太郎が誰と出会い、どういうやり取りをして、どんな感情が生まれて、どこに行き着く話なのか。いつもは物語を起承転結で考えるのですが、今回はラストを決めてから、その流れを書いていきました。特定の年齢層に向けて撮った作品ではありません。それぞれの世代で何か自分の実生活と重なるところがあるはず。そこに思いを馳せていただければうれしいです。

取材・文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<監督プロフィール>

脚本・監督:阪本 順治

阪本監督
阪本順治監督©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS、堀木三紀

1958年10月1日生まれ、大阪府出身。大学在学中より石井聰亙(現:岳龍)監督、井筒和幸監督などの現場にスタッフとして参加。89年、赤井英和主演『どついたるねん』で監督デビュー。多くの映画賞を受賞する。

藤山直美を主演に迎えた『顔』(00)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位など主要映画賞を総なめにした。以降もハードボイルドな群像劇から歴史もの、喜劇、SFまで幅広いジャンルで活躍。

その他の主な作品に『傷だらけの天使』(97)、『新・仁義なき戦い。』(00)、『KT』(02)、『亡国のイージス』(05)、『魂萌え!』(07)、『闇の子供たち』(08)、『座頭市THE LAST』(10)、『大鹿村騒動記』(11)、『北のカナリアたち』(12)、『人類資金』(13)、『団地』(16)、『エルネスト』(17)、『半世界』(19)、『一度も撃ってません』(20)、『弟とアンドロイドと僕』(22)などがある。

<あらすじ紹介>

ある港町。専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳(伊藤健太郎)。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男だ。両親の義一(小林薫)と道子(余貴美子)は埋立て用の土砂をガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ましながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らぬ人物のものだった……。

<作品データ>
『冬薔薇(ふゆそうび)』
脚本・監督:阪本順治
撮影:笠松則通
照明:渡邊孝一
録音:照井康政
美術:原田満生 我妻弘之
編集:普嶋信一
衣裳:岩﨑文男
ヘアメイク:豊川京子
出演:伊藤健太郎 小林薫 余貴美子 眞木蔵人 永山絢斗 毎熊克哉 坂東龍汰 河合優実 佐久本宝 和田光沙 笠松伴助 伊武雅刀 石橋蓮司
2022年|日本|カラー|スコープサイズ|5.1ch|109分|PG12
配給:キノフィルムズ
©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
公式サイト:https://www.fuyusoubi.jp/
6月3日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

「冬薔薇(ふゆそうび)」公式サイト
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堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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