女性解放運動のパイオニアが歩んだ道は”いま“の私たちとつながっている!『グロリアス 世界を動かした女たち』

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© 2020 The Glorias, LLC

なぜ、女性は社会で活躍できないのか

わずか、9.7%。

この数字は、2022年3月8日の「国際女性デー」で発表された、日本の国会(衆議院)における女性議員の割合だ。ちなみに、世界各国の議会で女性議員の占める割合は、過去最高の26.1%。諸外国に比べ、日本の女性の政治進出は明らかに後れをとっている。

映画『グロリアス 世界を動かした女たち』は、女性解放運動のパイオニアとして活躍したグロリア・スタイネムと活動家の仲間たちの奮闘を描いた物語。なぜ女性は社会で活躍できないのか。女性を抑圧するものは何か。男性優位の社会が生む女性差別とは――。女性の地位向上や活躍推進へのヒントが詰まった、波乱万丈の伝記映画である。

<あらすじ>

大学卒業後、インド留学をしたグロリアは、低カーストの女性たちが男性から虐げられている実態を知り、帰国後はジャーナリストとして働き始める。だが、「社会的なテーマで記事を書きたい」と希望しても、「女だから」という理由で、ファッションや恋愛のコラムしか任されない。そこでグロリアは高級クラブの「プレイボーイ・クラブ」にバニーガールとして潜入。その内幕を記事にして暴き、女性を商品として売り物にする実態を告発する。さらにはテレビの対談番組や講演会などに出演し、徐々に女性解放運動の活動家として知られ始める。40代を迎えた頃、仲間たちと共に女性の社会的テーマが主体の雑誌『Ms.』を創刊。未婚女性=Missや既婚女性=Mrs.とは別に、どんな女性にも使える新しい敬称=Ms.として、全米各地の女性に受け入れられていく――。

© 2020 The Glorias, LLC

本作では、グロリアの少女期から壮年期までを4人の女優が演じている。20代からのグロリアを演じたのは、『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞に輝いたアリシア・ヴィキャンデル。40代以降のバトンを受け継いだのが、『アリスのままで』で同賞の主演女優賞を受賞したジュリアン・ムーア。世代を超えた女優たちの競演も大きな見どころだ。

ヤングケアラーだった少女時代

女性解放運動のパイオニアとして、フェミニズムのアイコン的存在であるグロリア・スタイネム。さぞかし自信に満ちあふれ、タフな精神をもち、リーダーシップの塊のような人物なのだろうと想像していたら、むしろ真逆のタイプだった。本来のグロリアは、自分に自信がなく、意見を述べることや目立つことが苦手な女性なのだ。

病気の母を介護するヤングケアラーを経験した彼女は、少女時代から自己肯定感が低く、自分の気持ちを抑圧しながら生きてきた。「つい最近まで不平等から目を背けていた」「意見を言うと、たいてい面倒なことになる」「人前で自分の思いを話すのが苦手」など、ネガティブなセリフの数々には、彼女の抱える葛藤や迷いが現れている。

男性優位の社会構造に存在する、さまざまな女性差別

ジャーナリズムの世界に飛びこんだグロリアは、性別や人種、コミュニティ、貧困、職業など、女性たちをとりまく社会構造において、さまざまな差別が存在していることを目の当たりにし、黙っていることはできないと自らの足で歩き始める。女性運動の現場取材、活動家たちとの出会い、男女同権や平等な労働条件における記事の執筆などを通して、次第に「女性運動の象徴」と呼ばれるようになっていく。

© 2020 The Glorias, LLC

男性優位が当たり前とされた社会に、新たな一石を投じようとするグロリアの活動は、大海原に漕ぎ出す小舟のように孤独で、心もとない日々の連続だ。「プレイボーイ・クラブ」への潜入ルポでは、その目的や記事の内容よりも彼女のバニーガール姿が話題になり、「今度はポルノ業界に潜入するか」と揶揄されたり、テレビ番組の対談では男性司会者から「なぜ女なのに結婚や出産をしないのか」と詰問されたり、嫌悪感やセクハラ発言をぶつけられるのは当たり前だった。

また、当時アメリカで否定的に扱われていた人工中絶手術について、自身の中絶経験を告白したうえで、「産む」「産まない」の選択権を女性に与え、女性を自由にしようとする活動は、大きな論争を巻き起こした。

女性の地位向上を目指す闘いは、マラソンでなく、リレーである

映画のラストシーン。2017年にワシントンD.C.で行われた、ジェンダーに基づく差別や暴力に反対するアクション「ウィメンズ・マーチ」の実際の映像に、80歳を超えたグロリア本人の姿が登場する。50万人もの聴衆の前で凛とした声を響かせ、力強くスピーチする姿に、心の扉がゆっくり開いていくような解放感を覚えた。

© 2020 The Glorias, LLC

世の中で起きている差別と向き合い、社会を変えていくには、まず、一人ひとりが自分自身と向き合う必要があることを、この映画は教えてくれる。女性たちが抑圧してきた生きづらさや息苦しさを理解しあい、その理由や原因を考え、言葉にし、話し合う。そして、仲間たちとともに、自分が自分らしく生きるための方法を社会に向けて提案する。そんな取り組みを根気強く重ねることで、人の意識や社会の構造は少しずつ変わっていく。

「私たちの闘いは、マラソンでなく、リレーである」とグロリアは言った。

女性の地位向上に全力で取り組んだグロリアたちの活動を、歴史の一部にしてはいけない。彼女たちが獲得してきた権利をどう受け止め、どう繋いでいくかは、私たちに委ねられている。

文:小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

作品データ
『グロリアス 世界を動かした女たち』
原題:The Glorias
監督・脚本:ジュリー・テイモア
出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデル、ティモシー・ハットン、ジャネール・モネイ、ベット・ミドラー
2020年/アメリカ/英語/147分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳/髙橋彩
提供:木下グループ
配給:キノシネマ
https://movie.kinocinema.jp/works/theglorias
© 2020 The Glorias, LLC

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小川こころ (おがわ・こころ)

小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

「書く、読む、飲む」が何より好きな、もの書き屋。福岡県生まれ。

2021年に『ゼロから始める文章教室 読み手に伝わる、気持ちを動かす!』(ナツメ社)を出版。

大学卒業後、楽器メーカー勤務を経て、全国紙の教育部門に所属する新聞記者として、小学生新聞に携わる。”エンタメ担当“を公言し、映画や演劇、音楽、アートにまつわる取材やインタビュー記事の執筆に奔走する。その後広告会社にてコピーライター職を経験し、独立。「文章スタジオ東京青猫ワークス」を設立し、文筆活動や講師活動に力を注ぐ。

「ストアカ/まなびのマーケット」(ストリートアカデミー)の2019年度~2021年度アワードでは、ビジネススキル部門で3年連続「優秀講座賞」受賞。累計受講生数は3700人を超える。企業におけるライティングセミナー実績も多数。


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