『ブラックボックス:音声分析捜査』ヤン・ゴズラン監督インタビュー

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© 2020 / WY Productions - 24 25 FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE Productions

孤高の音声分析官が航空機業界の闇に立ち向かう『ブラックボックス:音声分析捜査』ヤン・ゴズラン監督インタビュー

フランスで観客動員数100万人を突破した映画『ブラックボックス:音声分析捜査』は、音声分析官が航空事故の戦慄の真相を暴いた作品です。2022年1月21日より全国で公開されます。

主人公のマチューには、『イヴ・サンローラン』でセザール賞を受賞したピエール・ニネ。音を聞くだけで、故障ならどの箇所か、事故なら何と接触したのか、事件なら犯人の人物像まで割り出す、音声分析官という真のプロフェッショナルを徹底的にリサーチして作り上げました。

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マチューの妻で新型航空機の認証機関に勤め、夫にも言えない秘密を抱えるノエミに『夜明けの祈り』のルー・ドゥ・ラージュ、調査局の冷静沈着なレニエ局長にフランス映画界の重鎮、『パリよ、永遠に』のアンドレ・デュソリエが脇を支えます。

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脚本も担当したヤン・ゴズラン監督に作品についてうかがいました。

〈ブラックボックス〉とは?

飛行データと操縦室の会話と音声を記録するために航空機に搭載されている装置。航空機事故調査のために使用される。名前の由来は墜落時の衝撃と熱に耐えられるように厳重に密閉されていることからきている。色は黒ではなく、耐熱塗料が塗られた赤やオレンジが一般的。(公式サイトより)

――航空業界が抱える問題をブラックボックスの音声をきっかけに明らかにしていくという物語を思いついたきっかけをお聞かせください。

この物語を思いついたきっかけは2つあります。

まず、航空業界には飛行機メーカーがあり、航空会社があり、そのセキュリティ会社があり、いろんな業種の人たちが集まって働いている。そこには巨大な経済的利害関係が存在し、映画の舞台としてとても魅力的。それにもかかわらず、映画の題材として取り上げられていない。もちろん機内でのトラブルを扱った作品はありましたが、事故の真相を分析調査する作品はほとんどありません。ここに興味を感じました。

2つめはブラックボックスの存在です。飛行機事故が起きると「ブラックボックスが見つかった」という報道が出ます。しかし、ブラックボックスといいながら、実はオレンジ色をしていることや、どうやって開けるのかを知っている人は少ない。しかもデータを解析するのはとても複雑で細かい作業です。そこから真相を見つけるのは現在の科学技術を反映していて面白いと思いました。

© THIBAULT GRABHERR

――脚本を書くにあたって、何か参考にされた事件があったのでしょうか。

参考にした事件や事故はありません。今回、映画史上初めて協力していただいたフランス民間航空事故調査局(BEA)は実際に調査した出来事に関するプロジェクトを支援することができないのです。

しかし、航空業界に大きな影響を与える問題点については現実に即したものを描きたい。過去に実際に起きた事故を再現するのではなく、現在の科学技術が抱えている危険性に関して忠実に作品を作りました。

――現在の科学技術はどんな危険性を抱えているのでしょうか。

飛行機の操縦が進化し、AI(人工知能)を活用して自動操縦ができるようになりました。これは本来、パイロットを助けるためのシステムですが、わずか6カ月足らずの間にインドネシアとエチオピアで墜落事故が起き、その原因が自動操縦だったと判明したのです。

2019年にボーイング社のパイロット支援システムを搭載する飛行機「ボーイング737マックス」は飛行が禁止されました。

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――AIによる自動操縦の危険性は航空業界だけの問題ではありません。しかしAI技術の発展も大事です。その辺りのせめぎ合いを監督はどう思われますか。

コロナ禍でもこのようにZoom(ズーム)を使ってインタビューできるのは、テクノロジーの進歩のお蔭です。こういったことは20年前にはできませんでした。

コミュニケーションの点では良い面が大きいと思います。しかし、ハイパーテクノロジーによって危険が生み出されていることも事実。人間にとって役に立つものが危険と隣り合わせでもある。飛行機事故はその警鐘です。航空業界という枠を超えて、あらゆる業界の問題に繋がっています。

――本作は音声の解析についても詳しい描写があります。脚本を書かれる際に苦労されたのではありませんか。

この脚本は自分だけでは手に負えないと思い、2人の方に入っていただいています。ドキュメンタリー的な部分があるので、資料作りには特に時間を掛けましたが、サスペンススリラーとしての展開にドキュメンタリー的な部分を組み合わせることには苦労しました。

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――本作を通じて監督が伝えたかったことはどんなことでしょうか。

まずは、コクピットボイスレコーダー(CVR)には機長、副操縦士、バックグラウンド・サウンド用、コクピットとクルーを繋ぐ4つのマイクのトラックがあり、そこからスイッチが押された音やドアが開いた音、窓ガラスにあたる雹の音などを取り出していくのですが、それには膨大な時間が掛かるため、真相を追及するのはとても複雑で、時間も掛かる、辛い作業だということ。

もう1つは科学技術が抱える問題点。AIは人々を守ると同時に危険に陥らせるということもみなさんに知ってほしいと思っています。

取材・文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<プロフィール>

© Philippe Quaisse Unifrance 

ヤン・ゴズラン監督(&脚本)

1977年3月28日生まれ、フランス・オーベルヴィリエ出身。
99年パリ第8大学に入学し、映画を学ぶ。03年、初の短編映画『Pellis』でヴィルールバンヌ短編映画祭にて審査員賞を受賞し、映画監督としてのキャリアをスタートさせる。07 年には『Écho』でジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭短編映画賞を受賞。10 年には初の長編映画『CAGED 監禁 』がスクリームフェストホラー映画祭で作品賞、監督賞等 5 つの賞を受賞する。その他、主な監督作品にピエール・ニネ主演作『パーフェクトマン 完全犯罪』(15)、『バーン・アウト』(17)がある。

『ブラックボックス:音声分析捜査』

<STORY>

ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落し、乗客・乗務員316人全員の死亡が確認される。司法警察の立会いの下、航空事故調査局の音声分析官がボイスレコーダー、通称“ブラックボックス”を開く。いつもなら責任者のポロックに同行するのは、最も優秀なマチューだったが、天才的なあまり孤立していた彼は外されてしまう。

だが、まもなくポロックが謎の失踪を遂げ、引き継いだマチューは「コックピットに男が侵入した」と記者会見で発表する。やがて乗客にイスラム過激派と思われる男がいたことが判明。マチューの分析は高く評価され、責任者として調査をまとめるよう任命される。

本格的な捜査に乗り出したマチューは、被害者の一人が夫に残した事故直前の留守電を聞いて、ブラックボックスの音と違うことに愕然とする。マチューのキャリアと命をかけた危険な探求が始まるのだった…。

<作品データ>

監督・脚本:ヤン・ゴズラン
出演:ピエール・ニネ ルー・ドゥ・ラージュ アンドレ・デュソリエ
字幕翻訳:橋本裕充
2021年/フランス/フランス語/129分/ドルビーデジタル/カラー/スコープ/原題:BOÎTE NOIRE/G
配給:キノフィルムズ
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1月21日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
公式サイト:https://bb-movie.jp/

ブラック・ボックス:音声分析捜査
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堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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