ウォール街の欲望をフランス映画が表現すると|『トレーダーゲーム』

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『トレーダーゲーム』は、ウォール街を舞台に描かれた、唯一無二の必勝モデルを手に入れたトレーダーの栄光と転落を描く金融サスペンス。製作国はカナダ・ベルギー・フランスで、血気盛んで野心に溢れる主人公をフランス人俳優のジル・ルルーシュが熱演。ヒロインはフランス人俳優のヴァイナ・ジョカンテ(『インサイド・ゲーム』)、元上司役に米国人俳優のマイケル・マドセン(『レザボアドッグス』)が脇を固める。

あらすじ

ウォール街の銀行で働くフランス人トレーダーのエルワン・ケルモール(ジル・ルルーシュ)は、カナダの気象学者シビル・マーラー(ヴァイナ・ジョカンテ)が発表した論文のチャートと相場の動きに関連性があることを発見する。シビルの協力を得て天候と相場の関連性を突き止めたエルワンは、同僚のジョージ(シャルル・ベルラン)とともに株価が急落すると予想。大量に買い入れ注文を出す。しかし相場は予想通りの動きをせず多額の損失を出してしまい、エルワンとジョージは解雇されてしまう。将来を悲観したジョージが自殺した直後、チャートはエルランが見込んだとおりの動きを見せ、シビルの理論が正しいことが証明される。

必勝理論を手に入れたエルランは、シビルや元同僚のサラ(リサ・レイ)らとともに新たなファンドを設立。他のファンドを圧倒する成果を挙げる。しかしあまりにも目立ちすぎてしまったため、元上司のウィリアム(マイケル・マドセン)がエルランの動きを模倣。他のファンドも追随し、エルランのモデルは必勝性を失っていく。

アドバンテージを無くしたエルランはやがて疑心暗鬼となり、暴走を諫めるシビルすらも遠ざけてしまう。一方、エルランの窮地を知らない投資家たちは、次々と追加投資を決定。後に引けないエルランは、シビルの理論に頼らずに一世一代の勝負を仕掛けるが・・・。

「リスクをとる」ということ

物語の冒頭では、雇われトレーダーとしてボーナスを期待するエルラン。上司からの無理な目標を叶えるべく、熱心な仕事振りを見せていた。しかし勤め先から解雇されると一変。サラの手引きでファンドを立ち上げたエルランは、金の亡者としての表情を見せ始める。

恋仲となったシビルへの扱いは、次第にシビルの”理論”が目的となり、愛情を感じられなくなっていく。機関投資家への対応も、いかにその場を切り抜けるかに終始する。いつしか聡明で意欲的なエルランの姿は、見る影もなくなっていった。

金融サスペンスで描かれたトレーダーの破滅は、本作でも描かれている。野心の先にあるのは何か。身の丈に合わない欲望は破滅を避けられないのか。

サスペンスの出来はイマイチ

DVDのパッケージでは「緊迫のノンストップ・サスペンス」とうたわれた本作。エルランとシビルが築き上げた必勝モデルが流出する理由に期待が寄せられたが、蓋を開けてみればエルランの売買をウィリアムが後追いするだけという、なんとも肩透かしな内容だった。

エルランのモデルがすでに破綻していることをウィリアムが知る理由も、シビルから別れ話を聞いたサラによるタレコミで、いわば痴情のもつれが原因である。深みのある演技に対し、脚本の出来が残念。サスペンス要素は期待せず、欲にまみれた人間の生き様を描いた作品として鑑賞するのがよいだろう。(1時間25分、日本未公開)

文:M&A Online編集部

<作品データ>
原題:KRACH /邦題:トレーダーゲーム
2010年・カナダ・ベルギー・フランス(1時間25分)

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