石油王の孫を誘拐した事件を映画化『ゲティ家の身代金』(2018年)

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今回紹介する『ゲティ家の身代金』は、“世界中の全ての金を手にした”と呼ばれた石油王ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を映画化した作品。大富豪であるにもかかわらず孫の身代金を断固拒否するゲティと、息子の救出に奮闘する母親ゲイルとの対決を描く。

あらすじ紹介

1973年7月、ローマでジョン・ポール・ゲティ3世(ポール=チャーリー・プラマー)が誘拐される。ポールは50億ドル(当時のレートで約1.4兆円)の資産を持つ世界有数の大富豪であるジャン・ポール・ゲティ(ゲティ=クリストファー・ブラマー)の孫。誘拐犯グループはポールの身代金として1700万ドル(当時のレートで約52億円)を要求するが、ゲティはマスコミの前でこれを拒否する姿勢を見せる。

ポールの母・アビゲイル・ハリス(ゲイル=ミシェル・ウィリアムズ)は、ゲティの息子と離婚し、子ども達と慎ましく生活していた。ポールの誘拐を知ったゲイルはゲティに連絡を取るも、ゲティは株相場に夢中で応じない。ゲティは元CIAの捜査員である腹心の部下・チェイス(マーク・ウォルバーグ)に、費用を一切かけずに孫を取り戻すよう指示を出した。

チェイスと合流したゲイルは、息子の遺体が見つかったという知らせを受ける。しかしその遺体は、ポールに危害を加えようとした犯人グループのひとりだった。遺体からグループの身元を割り出したチェイスたちはアジトに向かうが、すでにポールは世話役のチンクアンタ(ロマン・デュリス)とともに犯罪組織「ンドランゲタ」に売り渡された後だった。

一度は監禁場所から脱出し、警察に駆け込んだポールだったが、ンドランゲタは地元の警察さえも支配下に置く巨大犯罪組織。あっさりと連れ戻され、耳を切断されてしまう。切断された耳を送りつけられたゲティは身代金を支払うと宣言。しかし身代金を支払う条件として、ゲティはゲイルへポールの親権譲渡を要求する。

息子のため泣く泣く条件を飲むゲイルだったが、交渉の末400万ドルまで下げられていた身代金に対し、ゲティは所得控除の対象として処理できる100万ドルまでしか出さないと言う。残りの300万ドルの工面に頭を悩ませるゲイルは、犯人グループから「次は足を切る」という脅迫を受ける。

八方塞がりとなったゲイルは「身代金を払う」とマスコミに発表する賭けに出るが・・・。

孫の身代金を出し惜しみする石油王

ゲティは孫の身代金を「ここで支払えば14人の孫全員が誘拐される危険がある」という理由から支払いを拒否。「身代金を出すのはあくまで税金対策として活用できる範囲までだ」と出し惜しみするほどの守銭奴ぶり。一方で「孫の中でもポールは特別」との思いから、腹心のチェイスに孫の奪還を命じる。身代金を支払う条件に、ポールの親権放棄をゲイルに要求するなど、孫への執着心も垣間見せる。

ゲティは世界有数の資産家へと上り詰めたが、家族との関係は希薄だった。まだポールが小さかった頃、久しぶりに会う息子夫婦は自分の顔色を伺うばかり。家族として純粋に接してくれたのはまだ幼い孫のポールだけだった。しかし麻薬に溺れた息子と離婚した妻側に親権を取られ、ポールとの交流の機会を喪失してしまう。築き上げた莫大な財産の行き場は、美術品の収集に向けられた。

最後は母と子どもを描いた絵画を抱きながらこの世を去ったゲティ。孤独だった彼の人生から幸福とは何か、我々は何のために生きているのかを考えさせられる。

もう一つの対決

本作は莫大な資産に執着するゲティと、母として子を守りたいゲイルの対決が主に描かれているが、その裏にはもう一つの対決があった。ンドランゲタのボス・マンモリティ(マルコ・レオナルディ)と、誘拐グループの世話役・チンクアンタである。

犯人グループとの窓口に立たされ続けたゲイルと同様に、チンクアンタもボスに決定権を握られたまま交渉を続けていた。交渉材料に使われるポールに感情移入し、徐々に寄りそう姿勢を見せるチンクアンタ。しかしマンモリティの命令には逆らえず、ポールの耳を切断せざるを得なかった。

真の権力者は表に出ず、現場で交渉を続けるゲイルとチンクアンタ。“持たざる者”同士が疲弊していく様子に悲壮感を感じずにはいられない。

文:M&A Online編集部

<作品データ>
原題:All the Money in the World / 邦題:ゲティ家の身代金
2017年・アメリカ・イギリス合作(2時間13分)

ゲティ家の身代金

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