セーフティーネットの未整備による困窮

2つ目の「動機」は、社会保障制度の未整備があげられます。コンプライアンス後発国では病気や失業、障害など不測の事態に対する社会的なセーフティーネットが整備されていなかったり、社会保障制度が適用されないインフォーマルセクターで働く労働人口が相当数存在します。

日本企業の海外子会社では求められる社会保障制度を備えていることが多いと思われますが、たとえ社員本人は会社の医療保険が適用されているとしても、家族までカバーされておらず、家族の病気治療費のねん出が不正の「動機」になることもあります。

業績主義と不安定な雇用

3つ目の「動機」は、厳しい業績主義と雇用の不安定さです。少し前までは日本でもコンプライアンスに多少目をつぶっても業績をあげることが重要、と考えられてきました。しかし、コンプライアンス後発国における業績主義は日本とはくらべものにならないほど厳しい場合があります。

例えば、経営層の報酬は株価連動型であり、業績目標未達は解任を意味します。一般社員であっても、幅広い職種でノルマや業績目標が課され、これが達成できない場合は解雇となることも珍しくありません。そのため、自分のノルマを達成するために顧客に協力してもらう代わりに、後で個人の財布からキックバックを行ったり、別の機会に便宜を図るといった関係生まれやすくなります。

会社に対する「忠誠心の低さ」も背景に

家族や出身コミュニティーへのロイヤルティー(忠誠心)が強い一方で、会社へのロイヤルティーが弱いというのもコンプライアンス後発国の特徴です。例えば貧困であると教育が受けられない、出自により職業選択に制約があるなど、さまざまな理由から社会階層が固定化しているようなところでは、コミュニティーへの所属意識や階層意識がそのまま職場に持ち込まれるため、「同じ組織の一員」としての社員同士が共通認識をもつことが難しくなります。

社員にとっては、会社での部長や課長としての責務よりも、親族が経営する会社に便宜をはかったり、友人のノルマ達成に協力することの方が遥かに重要事項となります。ですから同じ釜の飯を食べ、苦楽を共にして社員同士が一つの家族になる、と軽々に期待することは危険ですらあります。転職しやすい状況では「不正が見つかったらやめればよい」といったノリで不正に手を染める人さえ出てきます。

以上、コンプライアンスコンプライアンス後進国で働く社員の「動機」について述べましたが、重要なことは、本社が各拠点の社員を取り巻く社会環境を理解し、社員の価値観や優先順位、組織の成り立ちやマネジメントスタイルを踏まえてコンプライアンス対策を講じることであると言えます。

文:オフィス・グローバルナビゲーター代表 森 範子