東京証券取引所が運営する「適時開示情報閲覧サービス」のサイトを眺めてみると、様々な情報が次から次へと開示されていくことが観察できます。こうした適時開示情報は、投資家に対して投資判断材料をタイムリーに提供するものであり、健全な市場取引の根幹をなすものといえます。

企業がM&Aを実施するという情報も投資判断材料として重要なものです。そのため、当然、適時開示の対象にもなります。今回は、適時開示制度の概要とM&Aの関係について確認してみたいと思います。

TDnetを利用した情報開示

本稿の執筆時点である11月上旬という時節柄、「適時開示情報閲覧サービス」には「平成31年3月期 第2四半期決算短信」という事項が目立ちます。

しかし、それ以外にも「2019年3月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」「監査役の異動に関するお知らせ」「固定資産の譲渡及び特別利益計上に関するお知らせ」「ユーロ建無担保普通社債の発行に関するお知らせ」など、実に様々な情報が掲載されています。

こうした情報はどのような仕組みで配信されているのでしょうか。これに関しては東証が運営するTDnet(Timely Disclosure network)が重要な役割を果たしています。TDnetというのは、東証への事前説明、報道機関への開示、開示資料のファイリング、公衆縦覧などを総合的に行うことができるシステムです。

例えば、上場会社であれば、上場規程に基づいて情報開示を行う場合には、必ずTDnetを利用することになっています。また、任意で情報開示を行う場合でも、極力TDnetにより開示することが推奨されています。

(出所:日本取引所グループHP

インサイダー取引の公表要件も充足

TDnetを利用して公開された情報のうち、開示日を含めて1カ月分は上述した「適時開示情報閲覧サービス」で閲覧できます。また、過去1年分の決定事実および発生事実に関する情報、過去5年分の決算に関する情報などは「東証上場会社情報サービス」で閲覧できます。

さらに、過去5年分の開示データすべてを確認したい場合は、有料のデータベースではあるものの、「TDnetデータベースサービス」で縦覧が可能となっています。

TDnet経由で開示した情報は、記者クラブや報道機関の本社の端末に伝送されるとともに、上述したようなサービスを通じて即時に公衆に縦覧されるため、インサイダー取引規制における公表措置の要件を充足するものとなります。

サービス名機関など

適時開示情報閲覧サービス

・開示日を含めて31日分(土・日 祝日含む)

東証上場会社情報サービス

・過去5年分の決算に関する情報

・過去1年分の決定事実・発生事実に関する情報など

TDnetデータベースサービス

・過去5年分の開示データすべて(ただし、有料)

適時開示が求められる情報とは?

それでは、適時開示が求められる情報にはどのような種類のものがあるのでしょうか。これは、基本的に株式売買などの投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営、業績などに関する情報です。具体的には、「決定事実」「発生事実」「決算情報」などがあります。

(1)決定事実

決定事実とは株式の募集や売出し、資本金などの減少、役員の異動、固定資産の売買などの決定があった場合に開示される情報です。

(2)発生事実

発生事実とは災害に起因する損害、業務遂行の過程で生じた損害、主要株主の異動、訴訟の提起または判決などが発生した場合に開示される情報です。

(3)決算情報

決算情報とは決算短信や四半期決算短信などの情報です。

(4)その他

その他は業績予想の修正、予想値と決算値の差異、配当予想、配当予想の修正などの情報が開示されます。また、子会社における決定事実、発生事実、業績予想修正などの情報も適時開示の対象となります。

M&A情報と適時開示

上述の適時開示が必要な情報のうち(1)の決定事実には、合併などの組織再編行為、事業譲渡や事業譲受、子会社の異動を伴う株式の取得や譲渡などM&Aに関する決定事実も含まれます。そのため、M&Aの進行課程において何が決定事実に該当するのかが問題となります。

M&Aの最終的な契約(株式譲渡契約、事業譲渡契約など)が適時開示の対象となるのは異論のないところでしょう。一方で、基本合意書の締結について意思決定機関で承認された場合などに適時開示が必要かどうかは適時開示規則にもとづき慎重に判断する必要があります。

例えば、その基本合意書が具体的な取引条件を含んでおり、法的拘束力を持つものであれば、適時開示の対象になるという判断もできます。しかし、デューデリジェンスなどを経て最終合意にまでたどり着くとは限らない基本合意の段階でM&Aに関する開示をすることが適切でない場合もあるでしょう。

適時開示の要否を明確に判断できるよう、基本合意には協力義務や誠実交渉義務を超えるような法的拘束力を持たせないなどの工夫も考えられるのではないでしょうか。

文:北川ワタル(公認会計士・税理士)