意外!報酬の繰延払いは「経営責任の厳格化」が狙いだった

東京地検特捜部は、ゴーン前会長が報酬額を少なく見せかけるために一部の支給を繰り延べたことを問題としている。だが「報酬支給の繰り延べ」は世界的な流れだ。

むしろ「英国では役員報酬が50万ポンド(約7000万円)を超える場合、一部繰り延べ支給が義務付けられている」と、井上康晴マーサージャパン 組織・人事変革コンサルティング部門 プリンシパル役員報酬・コーポレートガバナンスプラクティスグループリーダーは明かす。

「欧米企業ではリーマン・ショックの反省から役員報酬の繰延払いが一般的になった」と話す井上さん(Photo by Hidemi Matsumoto)

これは「2008年のリーマン・ショックの際に、高額報酬を受けていた金融機関の役員が何のペナルティーも課されずに退任や転職したのを受けての措置」(井上プラクティスグループリーダー)だという。

報酬全額を毎年支払うシステムでは、役員が中・長期的な収益よりも短期的に高い利益をあげて高額報酬を得ることも可能だ。そこで一部報酬を繰り延べ、その役員の責任で損失が生じた場合は支払いを停止する。

不正発覚時に過去に支給した報酬を返還させるクローバック(権利確定後の返還)条項やマルス(権利付与後権利確定前の減額)条項が、それに当たる。ゴーン前会長が報酬の一部を繰り延べた動機が支給額を少なく見せるためだったとしても、それ自体は欧米企業では全く不自然なことではない。

むしろ経営責任をより厳格化し、経営者が短期で終わると分かっていながら無茶な業績向上を仕掛け、多額の報酬を得て会社を去るという「食い逃げ」の抑止策なのだ。日産としてもゴーン前会長の起訴を受けて、役員退職慰労金や繰り延べ報酬額は大幅に減額することになるだろう。

ただ、クローバック条項やマルス条項がゴーン前会長との契約に盛り込まれていなければ、民事訴訟に持ち込まれるだろうが…。その時の被告は日産である。高額の役員報酬を支払う企業は、企業ガバナンス上も役員との契約にクローバック条項やマルス条項を盛り込んでおくべきだろう。

文:M&A Online編集部