中国企業のM&A戦略について、日本企業以外の外国企業と関連する部分にスポットを当てて紹介する。
今回は、近頃、2018年春にも東京都内で配車アプリを使ったサービスを開始し日本進出すると報道された、タクシー配車とライドシェア(相乗り)サービスで世界最大手の滴滴出行(ディディチューシン)を取り上げる。
滴滴出行は、2012に北京で設立されたライドシェアの企業である。当初は、配車サービスアプリ「滴滴打車(ディーディーダーチャー)」の運用を行っていた。後に、大手インターネット関連企業のテンセントの投資を受けて、成長を加速していく。
2014年までに、「滴滴打車」の唯一の競合として残ったのが、アリババから出資を受けていた「快的打車(クァイディダーチャー)」であった。その時点で、中国のスマートフォンのタクシー配車サービス市場は、「滴滴打車」と「快的打車」の2社がほぼ二分しているという状況であった。
2014年、上海在住だった筆者が経験したのは、タクシーの手配がほぼ100%アプリによるものになったため、アプリを持っていない人が「流し」のタクシーを拾うということが非常に難しくなった、ということである。当時、上海では金曜日の夜などは、すぐにタクシーを呼ぶということが難しい場合もあり、「滴滴打車」と「快的打車」の両方のアプリを駆使して、手配をしていた。
その後、2015年に「滴滴打車」と「快的打車」の両社は合併を発表し、「滴滴快的(ディーディークァイディ)」となった。合併後もそれぞれのブランドで独立して事業を運営してきた。「滴滴快的」は「滴滴出行」にリブランドされ、現在に至っている。
2016年、滴滴出行はウーバー(Uber)の中国事業を買収すると発表した。株式交換を使った合併方式で、買収額は明らかにされていない。滴滴出行とウーバー・チャイナは、合併による新会社を設立した。ウーバーの本体であるアメリカのウーバー・テクノロジーズとウーバー・チャイナに出資していた百度などは、この合併新会社の株式を受け取った。
この合併により、滴滴出行は、中国の三大大手インターネット関連企業である、テンセント、アリババ、百度すべてから出資を受けている唯一の会社になった。同年、滴滴出行はアメリカのアップル等から巨額の投資を受けており、また、2017年にはソフトバンクグループも投資を発表した。
ウーバーとは、アメリカの企業であるウーバー・テクノロジーズが運営する配車サービスのアプリのことである。世界70ヶ国・450都市以上で展開している。
2009年に誕生したウーバーは、スマホアプリを使ってハイヤーやタクシーなどを配車している。ライドシェアは2013年にアメリカで開始された。その後、既存のタクシー業界からの反発や摩擦を規制当局と起こしながらも、世界各地で少しずつ定着している。
日本のようにタクシーのサービスのレベルが高い国では、いわゆる「白タク」と呼ばれるライドシェアは普及しにくいかもしれない。しかし、既存のタクシーのサービスの質が高くなく、遠回りされたり、法外な料金を請求されたりするような国では、ライドシェアは便利なサービスになる。
筆者はマレーシアのクアラルンプールでウーバーに乗ったことがある。現地では、タクシーは危険な乗り物だが、ウーバーで呼ぶ「白タク」は安全だという。不思議な現象だが、ウーバーの「白タク」に実際乗ってみて、なるほどと思った。
まず、料金は全てスマホのアプリに登録しているクレジットカード決済になるため、運転手と現金のやりとりがなく、安全である。次に、事前に料金が決まっており、安心である。さらに、事前に料金が決まっているため、遠回りされることがなく、法外な料金を請求されることもない。
また、行き先は事前にアプリで指定できるため、運転手と言葉を交わす必要がない。車は指定の場所まで数分でやってきて、アプリで車のナンバーや種類、運転手の名前などが事前に分かるので、見つけて乗るだけ、である。目的地に着いたら、もちろん降りるだけ、である。
運転手に、ライドシェアって儲かるの?と聞いてみたのだが、自分は雇われているだけだから、との答えだった。つまり、車を持っている一般人が車を使わない時間に運転手を雇って、運転させて稼いでいるということである。
日本でも、シェアハウスやカーシェアリングが広まっており、「シェアリングエコノミー(経済圏)」は急速に広がっていると考えられている。その一つの形態として、ライドシェアが登場した。
滴滴出行がウーバー・チャイナを買収したことで、中国でのライドシェア市場は、それぞれのサービスが提携を強めていくのではないかと考えられている。
では、日本市場におけるライドシェアはどうなっていくのか。ライドシェアの普及と共に、滴滴出行とウーバー、両社の日本進出にも注目していきたい。
文:M&A Online編集部
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