一神教と疫病とコーポレートファイナンスⅨ│間違いだらけのコーポレートガバナンス(24)

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ロシア軍の侵攻に徹底抗戦するウクライナのゼレンスキー大統領(Photo By Reuters)

ゼレンスキー大統領の覚悟とウクライナ人の祖国愛を見誤ったプーチン

ところがそうではなかった。44歳の若きユダヤ系ウクライナ人の大統領は、ホロコーストを生き延びた両親を持つ。ゼレンスキー大統領の家族は、ソ連崩壊後に多くの東欧のユダヤ人がイスラエルに移住した際(IT大国イスラエルの原動力となった人々だ)も、ウクライナの地で生き続けることを選んだ人たちだ。

ユダヤ人のディアスポラの歴史は「移動した人々の物語」であると同時に、「移動しなかった人々の物語」でもある。ゼレンスキー大統領とその家族は、移動しなかったユダヤ人だ。ウクライナを自分の祖国として選んだ人々である。ウクライナの歴史の中にも、キリスト教徒によるユダヤ教徒の凄惨な迫害の歴史がある。

しかし、長きにわたり独立しては大国に飲み込まれる悲劇を繰り返し、ようやく1991年に独立したウクライナは、こうした宗教や民族の相克を乗り越えて、ウクライナ人としての誇りをもち、民主主義を育てていこうとしている。そのウクライナの地で生きて死ぬことを選んだ人々の信念を、プーチンは恐らく決定的に見誤ったのだろう。

ゼレンスキー大統領はプーチンとの直接会談のみが交渉を進展させると考えており、その場所としてイスラエルのエルサレムを提案しているという。すでにイスラエルのベネット首相はプーチンとゼレンスキー大統領の仲介に積極的に動いている。

この会談は実現するだろうか。確かに、両国には多くのユダヤ人がいる。ロシア政府内の要人やプーチンを支えるオリガルヒ(新興財閥)にもユダヤ人は多い。(多くはすでに国外逃亡しているが)。このような人的背景を鑑みれば、イスラエルの仲介は有効に機能すると思われる。しかし、エルサレムにプーチンが移動して会談を行うことは、現時点では実現可能性が高いとは思えない。

ロシアとも人的関係がありつつ、それ以上に米国とのつながりが非常に深いイスラエルをプーチンが自ら赴く先として選ぶことは考えにくい。但し、ベラルーシで開催されてきた代表団による交渉が、イスラエルに舞台を移す可能性は十分考えられる。今後の戦況が長引けば、その可能性はより高まるだろう。

(この稿続く)

文:西澤 龍(イグナイトキャピタルパートナーズ 代表取締役)

西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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