インボイス制度の概要や負担軽減措置がある程度定まり、また実際の施行まで半年に迫っており、免税事業者と取引を行っている会社の経理部門では具体的な対応を検討する必要があります。その際、経理部門内での対応、事業部門での対応、全社員への対応の3つの観点でまとめたいと思います。
1.経理部門内での対応
インボイス制度については、伝票を起票する経理メンバー全員に関係があるうえに、制度導入にあたり紆余曲折あったことで軽減措置や特例対応のための帳簿の記載方法など複雑になっているため、改めて経理部門内での勉強会を実施するなどインボイス制度に対する正しい理解が必要になるかと思います。そのうえで、情報システム部門と連携し自社の会計システムにおけるインボイス制度への対応を把握したうえで、業務フローの変更を検討する必要があります。
例えば、私の知っているだけでも次のようなことがあります。
・Aシステム:「課税売上対応10%免税事業者80%」というように課税区分のみで対応するため、請求書等で免税事業者である場合は伝票入力の都度課税区分および消費税額を手入力で修正をするか、あるいは修正は課税区分のみとして月次で免税事業者に対する消費税額はまとめて振替仕訳にて修正を行う
・Bシステム:取引先マスタに免税事業者フラグが付与されるため、伝票入力時に課税区分及び消費税額自動提案されるが、取引先について新しいインボイス制度においてのマスタメンテが必要であり、課税事業者への期中変更については請求書の受領の都度確認が必要となる
2.事業部への説明
取引先に対して適格請求書発行事業者の登録(予定)の有無を確認する必要があります。免税事業者は消費税の仕入税額控除や今回のインボイス制度に対する理解が浅いことも多く、いざ2023年10月になり、免税業者に対して消費税は加算請求できないという対応をした場合に取引金額についてもめることや下請法上問題となる可能性があり、適格請求書発行業者とならない取引先に対して事前に対応方針を決めるためです。
参考:「インボイス制度後の免税事業者との取引等に関するQ&A」(中小企業庁)
(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/invoice/qa.html)
事務上はインボイス制度導入に際して免税事業者がうける売上に関する消費税金額の不利益について、ある程度発注元負担することも考えられることから、上述の2割特例を考慮すると、免税事業者に対して、適格請求書発行事業者への登録の有無に応じて対応方針を決めることとなります。
例えば、従来税込110万円の取引をしている場合、
登録しない場合:お互い約1万円負担するとして、3年間は税込109万円とする
登録する場合:2割特例を考慮し、3年間は税込110万円のままとする
ことなどが考えられます。
3.全社員への説明
従来、従業員の立替経費について、領収書の名義や区分税率などの記載内容についてそこまで厳格にはチェックしていない会社が多かったかと思いますが、インボイス制度導入後は記載内容が厳格化されるとともに個別の特例がいくつかあるため、説明会とともに社内Q&Aの整備が必要となることが考えられます。
業種問わず一般的な会社における具体的な内容としては次のようなことが考えられます。
・簡易インボイスの考え方
・(一定規模以下の事業者)少額の場合の特例
・公共交通機関特例
・入場券等回収特例
・自販機等特例
・出張旅費特例
このようにインボイス制度は単なる税制改正とは異なり取引先や一般の従業員等影響範囲が広いため、10月よりスムーズに導入するためにはこの4月から徐々に対応を進めていくことが必要となります。
文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.167 2023.3.2)より転載