米プロバスケットボール(NBA)のスター選手だったコービー・ブライアント氏が2020年1月26日、ヘリコプター事故で亡くなった。心から冥福を祈りたい。墜落したヘリは「S-76B」。乗組員を含めて最大19人が搭乗できる双発ターボシャフトエンジンの中型ヘリコプターで、1977年に初飛行した。

日本でも警察航空隊や消防防災航空隊がコービー氏が事故に巻き込まれたのと同じ「S-76B」を、海上保安庁が主に巡視船搭載機として「S-76C」や最新型の「S-76D」を採用。報道用や離島用の航空便としても利用されており、日本人にもなじみの深いヘリだ。

「S-76」シリーズのヘリを生産しているのは、米シコルスキー・エアクラフト社だ。米国企業なのにロシア風の社名なのは、帝政ロシア(現在はウクライナ)出身で1913年に世界初の4発エンジン飛行機を実用化した航空技術者のイーゴリ・シコールスキイ氏にちなむ。1917年のロシア革命で米国へ亡命したシコールスキイ氏が、1923年にニューヨーク州ロングアイランドで設立したのが同社だ。

当初は乗客14人の双発複葉旅客機「S-29A」など当時としては大型の固定翼機を生産していたが、1926年に飛行艇「S-34」を開発。1930年代にかけてパンアメリカン航空などに中型・大型飛行艇を供給した。

しかし、過当競争による経営不振に陥り、ボーイングやプラット・アンド・ホイットニー・エアクラフトなどが経営統合して誕生したユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポート社傘下のチャンス・ヴォート社(現・ヴォート・エアクラフト・インダストリーズ・インク)と1939年に合併。ヴォート・シコルスキー社として再出発する。

シコールスキイ氏は同年にヘリコプター「VS-300」の開発に成功。1943年に米軍と世界初の実用ヘリとなる「S-47」の量産契約を結ぶと、旧ヴォート社と分離した。以来、シコルスキー社はヘリ業界のリーディングカンパニーとして君臨し続けている。

映画「ブラックホーク・ダウン」に登場する軍用ヘリ「UH-60 ブラックホーク」も、同社が開発・生産している。ちなみに映画(史実)でUH-60が墜落した原因は今回のような事故ではなく、ソマリアの民兵が発射した旧ソ連製携帯対戦車擲弾発射器「RPG-7」による撃墜だった。

シコルスキー社は旧ヴォート社と分離後もユナイテッド・エアクラフト・アンド・トランスポート社と、その後継企業であるユナイテッド・テクノロジーズ社のグループ企業だったが、2015年11月に兵器産業を主力とするロッキード・マーティン社の傘下に移っている。

文:M&A Online編集部