注目企業の株主の異動情報や、投資ファンドなどアクティビスト(モノ言う株主)による株式の取得状況を把握するには「大量保有報告書」が役立ちます。M&Aの“前兆”を知る手がかりになる場合もあります。議決権の一定以上を所有する主要株主の異動は、会社の方針決定に重大な影響を及ぼしますから、決算短信などと同様に重要な開示情報といえるでしょう。
大量保有報告書は対象企業の意向と関係なく、株式を売買した人が提出するため、企業側も報告書が提出されて初めてその事実を知ることがあります。株の買い占めなど最近話題となっている「敵対的買収」にも欠かせない情報です。
近年、再び猛威を振るっているアクティビストファンドの動向も、大量保有報告書でわかることがあります。新聞などで「XX会社(または△△ファンド)がOO会社の株式をX%取得していることが大量保有報告書で明らかになった」と報道されることもあるように、即時性が強い情報といえます。
このように、大量保有報告書は非常に役立つ情報であるにもかかわらず、知名度はまだまだ低いといわざるを得ません。後述するEDINETの操作性も含めて、情報の有益性や大量保有報告書の見方がわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、大量保有報告書の読み方や提出ルールなどをわかりやすく解説します。
大量保有報告書は、「株券等の大量保有の状況に関する開示制度」において報告が義務付けられており、通称「5%ルール」と呼ばれています。
報告書は金融庁が運営する電子開示システム「EDINET(Electric Disclosure for Investor’s NETwork :エディネット)」で閲覧が可能です。
報告書の縦覧期間は、提出日から5年間です。国内の上場企業の株券などを大量に保有した場合、海外居住者も報告義務の対象として含まれます。
まず、EDINET(https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/ )にアクセスし「書類検索」をクリックします。
「提出者/発行者/ファンド」に調べたい銘柄名(ここではユニゾ)を入力し、「書類種別」で大量保有報告書にチェックを入れ、「検索」ボタンをクリックします。
以下のように、ユニゾに関する大量保有報告書の検索結果が表示されます。ウェブページ(別ウインドウが立ち上がります)でみる形式とPDF形式がありますが、どちらも同じ内容です。
このように、EDINETは大変便利なシステムです。金融庁が運営しており、最も信頼性の高い「公的な一次情報」ですから安心して利用できます。(記載ミスがあればそれは提出者によるものです)
しかし、EDINETでは検索結果を1つ1つ開かなければ株式の保有割合や増減率が分かりません。
そこで、まずは期間検索などが可能な一覧性のあるデータベースに当たってみるのがおすすめです。ここではM&A Onlineが提供する「大量保有報告書データベース」で解説します。
M&A Onlineの「大量保有報告書データベース」( https://maonline.jp/db/shareholding_reports)にアクセスします。
期間検索をしたいときは「開示日」、特定の業界について動向を知りたいときは「業種」で検索するとよいでしょう。気になる投資家の直近の大口投資先や売買動向を調べたいときは、「開示日」と「保有者」をクロス検索(組み合わせ検索)するとよいでしょう。
以下は、開示日で検索した結果です。保有割合や増減が一目でわかります。
PDFアイコンをクリックすると、報告書が表示されます。
まずは、データベースでお目当ての会社についてどんな大量保有報告書や変更報告書が出されているのか把握し、気になる部分についてはEDINETで原本に当たってみるとよいでしょう。
また、日々開示される情報を毎日あるいは毎分ごとにチェックするのは、なかなか面倒です。機関投資家が提出する特例報告の締切日には大量保有報告書の提出が集中し、報告書件数が1日100件を超えることもあります。
M&A Onlineでは手軽に知りたいという方に、5分間隔で提出状況をお知らせするツイッター(@stpedia)や当日の提出状況をまとめたメルマガを配信しています。よろしければご利用ください。
さて、操作方法はこのくらいにして、次は大量保有報告書の制度と今話題のアクティビストファンドについて解説します。
「5%ルール」は大量保有の情報が株価形成に影響を及ぼすため、市場の透明性・公平性を高め、投資者の保護を目的として1990年の証券取引法(現金融商品取引法)改正で導入されました。
その後、2000年代半ばに、村上ファンドによる阪神電気鉄道株式の取得(約40%)をはじめ、ライブドアによるニッポン放送株式の取得(29.5%)、楽天による東京放送(TBS)株式の取得(15.5%)などが相次ぎ、大量取得を巡る攻防について議論が巻き起こりました。これを受けて改正事項が順次施行されます。2007年4月にEDINETでの報告が義務付けられ、インターネット上で誰でも大量保有の情報が得られる環境が整いました。
大量保有報告書には、次の3種類があります。
・5%以上取得した場合に提出する「大量保有報告書」
・大量保有報告書提出後、1%以上の増減があった場合に提出する「変更報告書」
・大量保有報告書または変更報告書に記載の不備などがあったときに提出する「訂正報告書」
報告書を提出しなかった場合、以下の罰則規定が設けられています。
大量保有報告書等の不提出や虚偽の記載があった場合、
・個人ー5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその併科 (金商法197条の2)
・法人ー当該法人に対し、5億円以下の罰金刑の両罰規定(金商法207条2)
となります。
大量保有報告書の形式不備や虚偽記載があった場合、内閣総理大臣は訂正報告書の提出を命じることができます。これに違反した場合、
・個人ー1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその併科(金商法200条12)
・法人ー当該法人に対し、1億円以下の罰金刑の両罰規定(金商法207条5)となります。
なお、EDINETへ一旦報告書を提出すると、取り下げることができません。修正する場合は「訂正報告書」の様式で報告します。
「変更報告書」のタイトルに”特例対象株券”と記載されている場合がありますが、これは特例報告制度に基づき提出された報告書のことをいいます。
特例報告制度とは、投資目的が「純投資」の場合、株式を保有する金融機関や機関投資家などに対して特例報告(金商法27条26)が認められており、業務が煩雑にならないよう提出期間が優遇されています。
通常は基準日から5営業日以内の提出が義務付けられていますが、特例報告の対象となる場合、原則2週間ごと(届出時に各月の第2・第4月曜日もしくは15日・月末のいずれかを選ぶ)に提出すればよいことになります。
ただし保有割合が10%を超えた場合や、重要提案行為を目的とする場合は特例の対象となりません。
報告書は複数ページにわたりますが、「大量保有報告書」「変更報告書」の開示書類で確認すべき項目は「提出者」と「保有割合(増減)」、そして「保有目的」の3つを押さえておけばよいでしょう。
特に保有目的の欄では、「純投資」「政策投資」「重要提案行為等を行う」など、保有目的が具体的に記載されています。
「重要提案行為等を行う」とは、経営陣や株主総会で「役員の構成の重大な変更」や「配当政策に関する重要な変更」などを提案する行為です。つまり、アクティビストの活動にあたりますから、この表現が記載されていたら、特に注意してみましょう。
余力があれば「当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況」の欄もチェックしましょう。
ここでは取引日や数量だけでなく、「市場内での売買」か「市場外の相対取引」なのかも記載されています。例えば市場で少しずつ買い増しした結果5%を超えているなら、ここしばらくの株価はその影響を受けていると推測できます。
「物言う株主」ともいわれるアクティビストファンド。IR-Japanによると、日本で活動するアクティビストの数は2014年の「7」から2019年9月には「33」に急増しているそうです。
アクティビストファンドは銘柄選定(スクリーニング)の際に「PBR(株価純資産倍率)が1倍未満」と割安に放置されている企業を抽出します。さらに株主還元の余力があったり、再編の余地があると判断したら、買収のターゲット(候補)にします。
この一連のスクリーニングを一般株主が行うのは面倒ですし、保有資産の時価評価などを算出するのは困難です。そこでアクティビストファンドに便乗し、彼らが保有する株式を後追いする「コバンザメ戦法」で利益を得る投資家もいます。(注:必ず儲かるというわけではありません。投資判断は自己責任でお願いします)
例えば、目下、敵対的TOB(株式公開買い付け)が話題を集めている不動産・ホテル業のユニゾホールディングス<3258>。グローバルで402億ドル(4兆4149億円、2019年12月末)を運用する世界最大級のアクティビストファンドである米エリオット・マネジメントは2019年8月6日に大量保有報告書を新規提出しましたが、同日の引け後のユニゾ株価は3560円でした。ところが、TOB合戦で株価が釣り上がり、2020年2月10日の終値は5750円と株価騰落率は「+61.52%」になりました。
筆頭株主だったKeyHolderがケイブ株を売却、保有割合を4.34%まで引き下げた。代わって株式を取得したゲームクリエイターらが制作するゲームは、ケイブを黒字転換できるか。
バークレイズ・キャピタル・セキュリティーズ・リミテッドが、直近の1年間に提出した大量保有報告書から、サービス業企業の株式の保有を増やしていることが分かった。