【M&A仕訳】株式交付の会計処理

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非支配株主とのの取引に該当する場合

会社法2条32号の2、会社法施行規則4条の2、同3条3項1号の規定により、株式交付の対象となる子会社の判定は、議決権比率のみにより判定され、いわゆる影響力基準による判定は行われません

そのため、議決権比率が過半数に満たないものの、影響力基準により会計上の連結子会社となっている会社の持ち分の買い増しを行う際には、株式交付手続きが可能となる場合があります。そのようなケースでは、「非支配株主との取引」として処理されます。

具体的には、取得対価の測定を、「子会社株式の時価」と「(非支配株主に交付される)親会社株式の時価」のうち、より信頼性の高いほうで行い(基準45項)、連結上は「子会社株式の追加取得(連結会計基準28項)」に準じて、追加取得した株式に対応する持ち分を「非支配株主持分*」から減額し、株式取得対価との差額を「資本剰余金」として処理します。
*かつては「少数株主持分」と称していました。

それでは設例2で非支配株主との取引に該当する場合を解説します。

(設例2)PEファンド2社から出資を受けた社内ベンチャーI社の場合

F社とI社の概要:

上場会社のF社は、社内ベンチャーとして新規に開始した事業がサービスローンチに成功したため、本格的な投資を行ってスケールさせる方針を決定した。

しかし、自社の資金のみでは不足するため、プライベートエクイティファンドのG社及びH社より出資を得て、F:G:H=40%:30%:30%の持ち分比率で新会社のI社を設立し、ビジネスを展開した。

株主間契約により、F社はI社の取締役会の過半数をF社から派遣するため、実質的な支配力が認められ、I社を持ち分40%の連結子会社とした。

株式交付の経緯:

その後I社は一定の成功を収め、ファンドの投資期限を迎えた。F社は、I社を上場させたい意向を持ち、G社は、I社の上場に成功すれば利益は大きいと期待し、ファンド投資期限を延長して投資を継続すると決定した。しかし、H社は、ファンドの投資期限の延長は行わず、持ち株を売却する方針を固めた。

3社の協議の結果、F社株式は市場で非常に高く評価されており、かつ、流動性も大きく、株式交付によりH社にF社株式を交付し、H社がブロックトレードで交付された株式を現金化することは十分に可能と判断されたため、F社は株式交付によりH社からI社株式30%を取得することとした。

取得日におけるF社株式の市場株価は1株当たり1,000円、H社に交付された株式数は3,000千株であった。

株式交付による純資産増加額のうち、資本金組み入れ額は1百万円とされた。

取得日におけるF社とI社の連結貸借対照表は以下の通りである。

●F社の会計処理

(個別会計)

子会社株式の取得を認識し、より信頼性の高い対価として交付したF社株式の時価により測定します。所定の額を資本金に組み入れ、残余を資本剰余金に計上します。

(連結会計)

F社がH社から株式交付により取得した株式は30%相当で、取引前の非支配株主持分には60%相当が計上されていたため、3,000百万円/60%*30%=1,500百万円を減額します。

追加取得分の子会社株式3,000百万円を減額し、差額を資本剰余金から減額します。

●I社の会計処理

(仕訳なし)

取引の前後でI社は株主構成が変化するのみですので、会計上の取引は発生しません。

●H社の会計処理

取得取引となる場合と同様に、I社株式の消滅(簿価)とF社株式の発生(時価)を認識し、差額を「投資有価証券売却損益」として計上します。会計処理に差がないため、仕訳の記載は省略します。

以上が、非支配株主との取引に該当する場合の会計処理となります。

文:岡 咲(公認会計士)/編集:M&A Online編集部

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岡 咲 (おか・さき)

大手監査法人所属の公認会計士です。ワンオペ育児に奮闘するアラフォーママです。本記事はペンネームで執筆しています。


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