「医療崩壊」の現場を体験 『感染列島』が教えてくれたこと
映画『感染列島』は、患者の生命を守ろうと未知のウイルスに挑む医療関係者の苦悩と矜持を描いた力作。「医療崩壊」の意味するところを映像から実感することができるだろう。
ウイルスの突然変異で治療法が確立されていない感染症が発生する。空気感染し、致死率は100%。人々はパンデミックの恐怖に慄く。専門家の提言を聞き入れず、政治家の思惑が優先される…。『FLU 運命の36時間』は、キム・ソンス監督による韓国発のパニックムービーだ。実際に世界各地で猛威をふるった鳥インフルエンザH5N1をモデルにしている。
韓国への密入国者を乗せたコンテナで変種の鳥インフルエンザが発生。ひとり残った生存者の逃避行から、ソウル郊外の盆唐区で感染が広がっていく。新型ウイルスの感染力の強さに対策が追い付かず、ついに拡散を防ぐため街が封鎖されることになった。
救急隊員のジグ(チャン・ヒョク)は想いを寄せるシングルマザーの女性医師イネ(スエ)の娘ミル(パク・ミナ)を守るべく奔走する。しかし極限の恐怖を目の前にして人々は理性を失い、暴徒と化してゆく。韓国政府は米軍の協力を得て鎮静化を図るが、その対応は想像を絶するものだった。
感染者が次々と運び込まれ、病院はパニックに陥る。医師たちは議員に状況を説明し、街の封鎖を提案した。ところが議員たちはパンデミックの言葉さえ知らず、対策協議より食事を優先するなど危機感がない。専門家の提言を聞き入れず、政治家の思惑が優先される。今の日本の状況が思い浮かぶ。
いざ封鎖が決定しても、「危機的状況だと知ると人はパニックに陥る。そうなればウイルスより恐ろしいぞ」と首相は発表のタイミングを逡巡する。封鎖地区の人々を守ろうとする大統領と首相の意見が対立し、ウイルスの脅威を武力で封じ込めようとする米軍の思惑も絡みながら事態は進行していく。
感染症の恐怖に慄く人々は、やがてウイルスを上回る恐怖が存在することを知ることになる。
お気楽に構えていた議員たちは街のパニックぶりを知った途端、家族も含めて街から脱出しようと慌てふためく。医者であるイネは娘の感染に気づくが、周囲への感染の危険を知りながら自分のそばに置こうとする。人間の本性がストレートに描かれる。
その一方で、ジグは不器用なほど誠実に周囲の人々を助けようと奮闘する。医師、救助隊員…職業倫理が問われる極限状態での彼らの行動に、画面越しからエールを送りたくなる。
<作品データ>
『FLU 運命の36時間』
監督・脚本:キム・ソンス
出演:チャン・ヒョク、スエ、パク・ミナ、ユ・ヘジン、マ・ドンソク
2013年/韓国/121分/カラー/シネスコ/5.1chサラウンド
原題:風邪 Flu
配給:CJ Entertainment Japan
©2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
文:堀木 三紀
映画『感染列島』は、患者の生命を守ろうと未知のウイルスに挑む医療関係者の苦悩と矜持を描いた力作。「医療崩壊」の意味するところを映像から実感することができるだろう。