映画の見どころ

© (2019) TRÉSOR FILMS – FRANCE 2 CINÉMA - MARS FILMS- WILD BUNCH – LES PRODUCTIONS DU TRÉSOR - ARTÉMIS PRODUCTIONS

ミステリー作品を前に、あなたはどんな風にそれを味わうだろう。私の場合、空中に浮かぶ目だけの存在になって、傍観して見るクセがある。本作もフライヤーや公式サイト等で見かけた“何度も騙される”、“あなたは一つでも真実を暴けるか?” そんなそそる文章に惑わされまい。

当たるかわからない犯人捜しよりも客観的にストーリーを楽しむのだと気楽に見始めたはずなのに気が付けば推理させられてしまって、案の定してやられる羽目になる。ミステリーは推理を楽しむ派のあなたも負け戦はしない派でも、本作を観終えた後に感じる「やられた!」 感はいっそ爽快だ。その理由は魅力的な登場人物と見事なストーリー展開にある。

脚本家チームは、キャラクターの魅力を深めるために5人の翻訳者に取材したという。仕事の仕方やどうやって生活しているのかを尋ねる中で気づいた、多くの翻訳者たちが感じている自分たちの仕事への非正当性や罪悪感は登場人物、ストーリーにも表れる。

例えば、家族を養うために翻訳者になったデンマーク語版のエレーヌ・トゥクセン(シセ・バベット・クヌッセン)は隔離された空間で、長い間殺してきた自分の夢と心の奥底にあったドス黒い闇の部分を気づかされ苦しむ。

翻訳者が主要登場人物だけあり、アングストロームへ異なる言語を駆使して翻訳者たちが応戦する緊迫シーンは手に汗握る。文学を愛する者たちと、富と名声に心を奪われた者との対比は見ものだ。お金に憑りつかれて敬意を払うことを忘れるとろくな目に合わないという教訓じみたものを感じる。

あの時あの人がナイフを手にしたのはなぜ? 事実が判明した次の瞬間に新たな謎が浮かび上がる。全てを見終えた後も、スッキリ疑問解消と思いきや新たな疑問が現れる。なぜ? もしや? そうか! いや待てよ…見終わった直後にも関わらず何度も反芻(はんすう)してしまう。

なんてことだ。もう一度見ないとあの気になる出来事の真相は永遠に確かめられない。一粒で何度でも美味しい仕掛けたっぷりのミステリーの醍醐味がそこにある。監督が観客に届けたいと願った最高の喜びや極上の映画体験を、あなたもきっと味わうだろう。

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 「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」
原題:Les traducteurs/英題:The Translators
2020年1月24日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー
監督・脚本:レジス・ロワンサル「タイピスト!」
出演:ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコ、リッカルド・スカマルチョ、シセ・バベット・クヌッセン、エドゥアルド・ノリエガ、アレックス・ロウザー、アンナ・マリア・シュトルム、フレデリック・チョー、マリア・レイチ、マノリス・マヴロマタキス
公式サイト:https://gaga.ne.jp/9honyakuka/
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文:宮﨑千尋(映画ライター)