「命の尊さ」を次世代に問いかける 映画『島守の塔』

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©2022 映画「島守の塔」製作委員会

「命の尊さ」を次世代に問いかける 映画『島守の塔』

ウクライナで起きていることは、他人ごとではない

ロシアのウクライナ侵攻が連日ニュースで報じられている。爆撃で街や住居が破壊され、がれきの下で身を潜める人々、増え続ける死者や重傷者。何の罪もない人たちが平和な生活を一方的に奪われ、戦争の犠牲になっている。

ウクライナで起きていることは、他人ごとではない。太平洋戦争末期、日本で約20万人が犠牲となった「沖縄戦」を描いた映画『島守の塔』が全国公開される。萩原聖人と村上淳によるダブル主演。鮮烈な個性を放つ俳優たちが、県民の命を守るために奔走した二人の官僚を熱演している。また、軍国少女として教育を受けてきた県職員役・吉岡里帆の演技が観る者の心を揺さぶる。スクリーン全体から「生きろ!」という魂の叫びが溢れている。

<あらすじ>

沖縄戦末期、本土より派遣された2人の内務官僚がいた。1人は学生野球の名プレーヤーとしてならし、戦中最後の沖縄県知事として沖縄に赴任した、兵庫県出身の島田叡(萩原聖人)。もう1人は、栃木県出身の沖縄県警察部長・荒井退造(村上淳)。荒井も野球経験者で、高校時代には野球部のキャプテンを務めていた。

共に大切な家族を本土に残して沖縄に赴任し、「野球」という縁でつながる島田と荒井。軍の命令に従いながらも、食糧の確保や疎開など、職務を超えて県民の命を守ろうと尽力する。

「鉄の暴風」と呼ばれた激しい空襲や艦砲射撃、上陸戦により、県民の4人に1人、約20万人が犠牲となった「沖縄戦」。『地雷を踏んだらサヨウナラ』の五十嵐匠監督が「生きることの意味」や「命の尊さ」を次世代に問いかける、沖縄本土復帰50周年の節目にふさわしい作品だ。

©2022 映画「島守の塔」製作委員会

沖縄戦末期、本土から派遣された2人の内務官僚

ついさっきまで隣にいて、一緒に笑っていた家族が、突然の空襲によって未来を奪われ、血まみれになって死んでいく――。1944年10月10日、沖縄戦の始まりとなった「10・10空襲」が決行された。それまで平穏だった沖縄をアメリカ軍の機動部隊が襲い、のべ1400機もの軍用機が軍事施設から住宅まで無差別に爆撃と機銃掃射を行った。この空襲で、那覇の市街地の9割が焼失し、5万人が焼け出された。

そんな折、第27代沖縄県知事として、島田が着任した。沈痛な面持ちの職員たちを前に、明るく大きな声で歌を歌い、住民と酒を飲みつつ語り合う姿は、官僚というより、友人や仲間のよう。どんなに過酷な場面でも、島田がいると、自然に笑顔が広がっていく。

共に野球経験者である荒井と野球談議をする中で、「実際の戦争は危険多くて損失おびただし、ベースボールほど愉快にてみちたる戦争は他になかるべし」と、俳人・正岡子規の言葉を噛みしめるシーンも印象的だ。

敵の捕虜になるより死を選べ

急きょ着任した島田知事の世話役を任されたのが、県職員の比嘉凛(吉岡里帆)である。戦時教育を植え付けられている凛は、「生きて虜囚の辱を受けず、死して罪禍の汚名を残すことなかれ」(生き永らえて敵の捕虜になるよりも死を選べ)という戦時訓を疑わず、「日本軍が負けるわけがない。必ず神風が吹く」と信じている。

家族が犠牲になっても、自分の生き方を変えようとしない凛。「生きろ」という島田の言葉を受け止められず、「なぜそんなことを言うのですか」「私はお国のために喜んで命を投げ出します」と拒絶してしまう。

凛の勇ましさや揺るぎない強さに、ぞっとするような狂気を感じる。けれども、「命を大切にしろ」と繰り返す島田の言葉は、少しずつ凛の心に浸透していく。

©2022 映画「島守の塔」製作委員会

一人でも多くの県民の命を守り抜く

本作には、大人たちだけでなく、戦争に巻き込まれ、犠牲となった子どもたちの姿も登場する。14~17歳の男子生徒を動員した少年兵部隊「鉄血勤皇隊」は、伝令や弾薬の運搬などを行っていた。また、女性学生は「ひめゆり学徒隊」などに参加し、負傷した兵士の看護や食事の世話にあたった。こうした少年少女の多くは、日本軍とともに撤退し、戦死や集団自決に追い込まれたのだ。

過酷な状況下で、島田のところに新聞を届けに来た鉄血勤皇隊の少年が、まっすぐな瞳で口にした言葉が忘れられない。

「ぼくたちはこの戦争が終わったら、学校に戻れますか。ぼくはもっと勉強したいです」。

県政トップとして軍の論理を優先し、住民保護とは相反する戦意高揚へと向かわせていることに苦悩しながら、「一人でも多くの県民の命を守り抜く」と決意した島田。島田と行動を共にし、県民の疎開や保護を必死に推し進めた荒井。「お国のために死ぬ」と言いながら、本来の「生」と向き合っていく凛。戦争に翻弄され、夢を語りながら死んでいった少年少女たち。

絶望に追い込まれ、苦悩と悲しみの中で、それでも懸命に一筋の光を手繰り寄せようとする人の姿を、目と心に焼きつけてほしい。

文:小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

『島守の塔』作品概要
萩原聖人 村上淳 吉岡里帆 
池間夏海/榎木孝明/成田浬 水橋研二/香川京子
監督・脚本:五十嵐匠
脚本:柏田道夫
音楽:星 勝
製作:映画「島守の塔」製作委員会
配給:毎日新聞社 ポニーキャニオンエンタープライズ
©2022 映画「島守の塔」製作委員会
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
https://shimamori.com/
7月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほかにて全国公開

『島守の塔』
©2022 映画「島守の塔」製作委員会

小川こころ (おがわ・こころ)

小川こころ(文筆家/文章スタジオ東京青猫ワークス代表)

「書く、読む、飲む」が何より好きな、もの書き屋。福岡県生まれ。

2021年に『ゼロから始める文章教室 読み手に伝わる、気持ちを動かす!』(ナツメ社)を出版。

大学卒業後、楽器メーカー勤務を経て、全国紙の教育部門に所属する新聞記者として、小学生新聞に携わる。”エンタメ担当“を公言し、映画や演劇、音楽、アートにまつわる取材やインタビュー記事の執筆に奔走する。その後広告会社にてコピーライター職を経験し、独立。「文章スタジオ東京青猫ワークス」を設立し、文筆活動や講師活動に力を注ぐ。

「ストアカ/まなびのマーケット」(ストリートアカデミー)の2019年度~2021年度アワードでは、ビジネススキル部門で3年連続「優秀講座賞」受賞。累計受講生数は3700人を超える。企業におけるライティングセミナー実績も多数。


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