ウェクスラーは正義に燃えるサリンジャーに対し「本気でIBBCを打ち崩すには枠の外に出なくてはならない」と、理想を捨て違法捜査に手を染めるように促す。世界中の組織との繋がりを持つIBBCを裁くため、サリンジャーは法律の枠を越えた方法の選択を決意。スカルセン殺害も辞さない覚悟を決める。
そうしてサリンジャーはトルコの地でスカルセンを追い詰めたが、サリンジャーがスカルセン殺害に戸惑いを見せている間に、スカルセンはカルビーニの息子兄弟に雇われた殺し屋にあっさりと始末されてしまう。
インターポール捜査官の立場を危うくし、協力者をことごとく殺害された中でようやく手にしたチャンスを横から奪われたサリンジャー。そしてスカルセンが「俺が死んでも代わりはいる」と語ったとおり、IBBCでは即座に別の幹部が頭取となり、発展途上国への武器輸出は継続された。
努力は実らない。願いは叶わない。サリンジャーの目が厳しい現実を物語る。大きな力を持たない個人がどれだけ身を削っても、資金を持つ組織の前には無力である、と突きつけられる非情なエンディングは、やや消化不良で意見が分かれるところだろう。
エンドロールで、上院議員となったホイットマンがIBBCに対し、紛争国への違法融資調査に切り込んだと告げる。調査の結末までは描かれなかったが、巨悪に対し正統な法の目が向けられたのは、せめてもの救いというべきか。
<作品データ>
原題:The International / 邦題:ザ・バンク 堕ちた巨像
2009年・アメリカ(1時間57分)
従業員が勤務先から着服する横領事件は後を絶たない。今回は、銀行で働く平凡な主婦が、ふとしたきっかけで横領に手を染め、転落していく様を描いた映画『紙の月』を紹介する。