1株当たり純資産を下回るTOB価格をスクイーズアウトの「公正な価格」と認めた例
今回は、1株当たり純資産を下回る価格によるTOB及びその後のスクイーズアウトに関する裁判例を紹介します。
本判決は、争点①については明示的な判断を避けた上で、争点②について文理解釈等に基づき A 説(配当の全体にみなし配当の規定を適用する見解)を採用しました。
そのうえで本判決は、上記1.及び 2.の各制度が二重課税又は国際的二重課税の排除を目的としていること、上記3.が資本の払戻しに含まれる経済的に利益の配当と同一と考えられる部分についてみなし配当の取扱いをしていることから、法人税法上、利益剰余金を原資とする配当の額が株式の譲渡対価と扱われることは想定されていないとして、みなし配当の金額の具体的な計算を定める法人税法施行令 23 条 1 項 4号に従って計算した結果、利益剰余金の額が「株式又は出資に対応する部分の金額」に含まれる(すなわち譲渡対価の一部として扱われる)場合には、当該政令の定めは、 そのような計算結果となる限りにおいて、法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると判示しました。
そして、本件については、株式譲渡の対価の額 は減少した資本剰余金の額と同額の 1 億米ドルとなり、みなし配当の金額は 5 億 4400 万米ドルに修正されるべきこととなるとして、被告(国)の主張には理由がないとして更正処分を取り消す判決(納税者勝訴判決)を下しました。
本件は、政令が法律の委任の範囲を逸脱していたことを理由にして当該政令を無効と判断した珍しい判決です。
本判決は、争点①の「本件資本配当と本件利益配当を 1 つの配当と取り扱ってみなし配当規定を適用してよいか」について判断を示していません。これは、1 つの配当として取り扱う場合でも、政令を一部無効とすることにより、別個の配当と取り扱う場合と同じ計算結果となるため、判断を示す必要がないとされたのではないかと推測されます。
この点、上記に紹介した裁決は 1 つの配当の範囲を緩やかに解釈しましたが、議案の個数等の私法上の法律関係に即して 1 つの配当かどうかを判断するのか、それとも税法独自の基準に基づいて判断するのか等の判断基準が明らかにされていません。
私法上の法律関係に基づいて課税関係を判断するという税法の原則的な考え方によれば前者の考え方が妥当ということになりますが、課税の公平を重視するのであれば私法の整理には左右されないという後者の考え方も成り立ちうるものと考えられます。但し、後者の考え方においてはどのように 1 つの配当の範囲を画定するのか(同日の配当のみに限定されるのか等)という点が問題となるものと考えられます。
実務では、資本剰余金と利益剰余金の双方から配当を行うことは珍しくありませんが、裁判例等においてこの点の考え方が明確になるまでは、資本剰余金を原資とする配当と 利益剰余金を原資とする配当とを同日又は近接する日に行う場合には、慎重な検討が 必要です。
争点②については、立法担当者が A 説を採用しており、また、上記Ⅲ.の裁決も A 説を採用する中で、裁判所も A 説に立つことを示した点において意義があるものと考えられます。
最後の政令を無効とした点については、裁判所は、平成 18 年度税制改正が会社法上の取扱い(いずれの剰余金を原資としたか)によって配当・みなし配当の取扱いを決定するという枠組みを採用したことを重視して、会社法が依拠する会計上の利益(利益剰余金)は税法上も利益として課税されるべきであり、資本と混同されてはならないと考えたものと思われます。
これも 1 つの考え方ですが、一方で税法上の資本と利益の峻別は、税法固有の概念である「資本金等の額」(法人税法 2 条 16号)と「利益積立金額」(法人税法 2 条 18 号)の区分によって行われており、これらは会計上の資本・利益とは必ずしも一致しません。控訴審において、国は、後者の観点から更正処分の適法性を主張しているようであり、東京高裁がこの点についてどのような判断を下すのかが注目されます。
今回は、1株当たり純資産を下回る価格によるTOB及びその後のスクイーズアウトに関する裁判例を紹介します。
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