1株当たり純資産を下回るTOB価格をスクイーズアウトの「公正な価格」と認めた例
今回は、1株当たり純資産を下回る価格によるTOB及びその後のスクイーズアウトに関する裁判例を紹介します。
みなし配当とは、資本の払戻しその他の一定の事由により、内国法人が他の法人から交付を受ける金銭等について、資本金等の額のうち当該交付の起因となった「株式又は出資に対応する部分」を超える部分の金額をいい、当該金額については、これを剰余金の配当等であると税務上みなして、上記 1.または 2.を適用するものとされています(法人税法 24 条第 1 項)。
ここで「資本の払戻し」には「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」が含まれるものとされており、上記 1.と 2.において資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当が除かれていることと対応しています。
他方で、内国法人が交付を受けた金銭等からみなし配当の額を控除した残額は、株式譲渡の対価として取り扱われ、譲渡損益課税の対象となります(法人税法 61条の2第1項)。
図表 1 は、以上のみなし配当と譲渡損益の取扱いを整理したものです。
図表 1 みなし配当と譲渡損益
なお、内国法人が資本剰余金を原資とする配当を受けた場合における「株式又は出資に対応する部分」の計算方法は図表 2 のとおりです。
図表 2 株式又は出資に対応する部分の計算(法人税法施行令 23条1項4号)
平成18年に会社法が制定され、旧商法下の「減資による払戻し」と「利益の配当」を包摂する概念として「剰余金の配当」が設けられ、資本剰余金と利益剰余金のいずれを原資とする場合も会社法上は剰余金の配当として取り扱われるようになりました。
以上のみなし配当の取扱いは、かかる会社法の整理を踏まえて、平成18年度税制改正において、税法においては配当の原資が利益剰余金と資本剰余金のいずれであるかに着目して取扱いを区別することとしたものです。
上記のとおり、利益剰余金を原資とする配当と資本剰余金を原資する配当の税務上の取扱いは異なりますが、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資として剰余金の配当をした場合における取扱いについては、図表 3 の A 説・B 説に見解が分かれています。
図表 3 利益剰余金と資本剰余金の双方を原資としている配当の取扱いに関する議論
平成 18 年度税制改正の立案担当者は A 説に立つことを明らかにしています。また、この論点については、国税不服審判所の裁決において先例があります。すなわち、国税不服審判所平成 24 年 8 月 15 日裁決(裁決事例集 No.88)は、利益剰余金のみを原資とする配当と資本剰余金のみを原資とする配当が別々の議案として機関決定され、しかし各配当の効力発生日が同日であったという事案において、これらの配当は資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して配当を行ったものであると認定した上で、A 説を採用し、配当の全額がみなし配当の規定の適用を受ける「資本の払戻し」に該当すると判断しました。
今回は、1株当たり純資産を下回る価格によるTOB及びその後のスクイーズアウトに関する裁判例を紹介します。
外為法の一部改正により、外国投資家による対内直接投資等に対する規制が強化され、事前届出の対象範囲が拡大されました(平成29年10月1日施行)。改正のポイントを解説します。