デラウェア州裁判所が、デラウェア州法はサンドバッギング条項を許容していることを判示

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Image by Sang Hyun Cho from Pixabay

MARCH 2022 アラート

2022年3月9日、デラウェア州衡平法裁判所はArwood v. AW Site Services, LLC事件において対審後の判断を下しました(その後、2022年3月24日に修正)。原告は数十年にわたり廃棄物管理事業を営み、2018年にこれを売却することに合意しました。原告は「公式の会計システム」を利用しておらず、きちんとした計算書類も作成していなかったため、買主が取引を行うか否かの判断に先立ち、独自に財務内容を固めることができるよう、会社の記録への完全なアクセスを与えることに合意しました。

クロージング後、買主は、原告が顧客に対して常態的に過剰請求を行っていたことを発見し、エスクロー口座上の買収資金をリリースすることを拒否しました。そのため、原告は、エスクロー上の資金を取得すべく訴えを提起しました。これに対し、買主は、反訴を提起し、原告が詐欺的な方法により買主に対して事業を買収するよう誘引したこと、対象会社の計算書類及び法令遵守に関する事項を含む、買収契約上の表明保証に違反したことを主張しました。

裁判所は、原告が詐欺的な方法により事業を買収するよう誘引したとの買主の請求は棄却したものの、原告が買収契約上の表明保証に違反したとの請求を認めました。すなわち、原告が顧客への過剰請求により「法令を遵守して」事業を行っていなかったことを認定しました。

その際、裁判所は、売主が原告に対し「サンドバッギング」を行っている可能性、すなわち、買主は売却前の対象会社の記録を完全に閲覧することができたため、この問題を取引実行前に認識しながらあえて実行し、その後に真実でないことを初めから認識していた表明保証の違反に基づいて訴訟を提起した可能性があることを考慮しました。証拠を比較衡量した結果、裁判所は、買主において表明保証が虚偽であることを実際に認識していたというのではなく、表明保証の真実性について無頓着であったというのが証拠に沿っていると判示しました。それでもなお、裁判所は、仮に買主が表明保証違反について実際に認識していたような場合であっても、買主は当該違反による損害を回復することができると判示し、「デラウェア州」が「俗に『サンドバッギング許容州』と呼ばれている通りである」と言及しています。

その後、裁判所は、修正意見において、当事者が指摘していなかった買収契約の条項において、損害賠償請求当事者が「違反を認識し、又は認識し得た場合」であっても、「損害賠償請求を行うことができる」とする定めがあったことを職権で認定しました。裁判官は、当事者がサンドバッギングを認める契約を締結していた以上、その合意を尊重すると述べ、さらに進んで、デラウェア州法においては、当事者が合意により排除しない限り、原則としてサンドバッギングが認められることに繰り返し言及しました。

これまで、デラウェア州最高裁判所は、デラウェア州のコモン・ローにおいて、当事者の合意が無い場合にサンドバッギングが認められるか否かについて判断していませんでした。しかし、本件におけるデラウェア州衡平法裁判所の判断は、少なくとも今のところ、デラウェア州法においてサンドバッギングが原則として認められることを確認するものであり、デラウェア州法を準拠法とする買収契約を作成する際には、本件の判断に留意する必要があるといえます。

本判断は、米国の各州において有効性の判断が分かれるサンドバッギング条項について、デラウェア州衡平法裁判所がデラウェア州法の立場を明確に示した事例であり、米国においてM&A取引に関する契約を締結する日本企業にも重要な指針を与えるものです。本アラートは、米国におけるM&Aに関心を有する日本企業にも興味のあるトピックと考えられることから紹介する次第です。詳細は、Jones Day Alerts “Delaware Court Holds That Delaware "Should Be a Pro-Sandbagging Jurisdiction"”(オリジナル英語版)をご参照下さい。

弁護士 森 雄一郎
弁護士 中島 渉

ジョーンズ・デイ法律事務所 アラート「デラウェア州裁判所が、デラウェア州法はサンドバッギング条項を許容していることを判示」より転載

ここに記載されている見解および意見は執筆担当者の個人的見解であり、法律事務所の見解や意見を必ずしも反映するものではありません。

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