経済産業省の事業再編研究会(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)は5月22日に開いた第6回会合で、事業再編の促進に向けた検討課題に関する報告書をまとめた。「スピンオフ税制」の拡充と、2020年度の税制改正で導入が見送られた「自社株式対価M&A」の課税繰り延べ措置を求めている。
特定事業を切り出して独立会社とするスピンオフの優遇税制は2017年度に創設されたが、株主課税と法人の資産譲渡損益課税が繰り延べとなる税制適格スピンオフの対象は100%子会社か自社の事業部門に限られている。
事業再編研究会の報告書では、100%未満の子会社も適格組織にすれば、親会社の利益が優先されやすいためガバナンス上の問題が指摘されている親子上場の解消が進むと期待。非上場の子会社についても、新規上場(IPO)で上場子会社にした後、スピンオフで完全分離すると、親会社は投資回収の機会を得ながらスピンオフを行えるとした。
また、自社株式対価M&Aについては、欧米では大規模な株式公開買い付け(TOB)の際に盛んに用いられていると強調。日本では買い付け先の株主の譲渡益などに対する課税負担がネックとなり、TOBや相対取引での自社株式活用は選択肢になりにくいと指摘した。
報告書ではさらに、1.手元資金の制約を超えて買収機会を拡大できる、2.手元資金を設備投資や人件費などに回せる、3.売り手側が買い手側の株式を保有するため買収後も売り手側に企業価値を向上させるインセンティブが生じる、と自社株式対価M&Aの具体的なメリットを挙げた。
グローバルなM&A競争に臨む上では諸外国と対等の条件確保も求められる中、ポストコロナを見据えた持続的成長には大胆かつスピーディーなM&Aの実行が不可欠と主張。現預金の温存を助ける課税繰り延べ措置の創設は、日本経済の成長戦略にとって喫緊の課題とした。
この日の会合では、4月20日の第5回会合で内容を集約した「事業再編実務指針案」についても討議し、コロナショック後の事業再編などに関する記述の変更を確認。「グローバル企業として成長志向の強い企業」を対象とし、実務指針案の主な提言を要約したエグゼクティブ・サマリーもまとめた。
事業再編研究会は、政府の未来投資会議が事業再編促進の環境整備を図る指針づくりの方向性を示したのを受けて発足し、1月31日に初会合を開いた。日本企業のスピンオフ等による積極的な事業再編を促すため、実効的なガバナンスの仕組みを構築し、実務指針を取りまとめる。
経産省は今回の報告書(実務指針案を含む)に基づき、6月末をめどに正式な指針を策定・公表することにしている。
関連リンク:事業再編研究会報告書「今後の検討課題」(案)
関連リンク:事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(案)
参考URL:武田薬品が活用する「自社株対価M&A」は本当に使えるのか。
文:M&A Online編集部
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