東京・九段のランドマークといえば、靖国神社と日本武道館が真っ先に思い浮かぶに違いない。全国的にも知名度は抜群だ。そんな九段界隈で国内外からの宿泊を一手に引き受けてきたホテルグランドパレス(東京都千代田区)が6月末で営業を休止する。開業50周年を目前に控えながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響が立ちふさがった。

高層ホテルの先駆けとして1972年に開業

ホテルグランドパレスは皇居の森を北西から望む。地上24階建てで、客室数は456室(820人収容)。丸の内にあるパレスホテル(現パレスホテル東京)の姉妹ホテルとして開業したのは第一次石油危機が起きる前年の1972年。皇居周辺で高層ホテルの先駆けだった。日本を代表するホテルの一つであり、九段のランドマークとして親しまれてきた。

今年6月末日でホテル営業を休止するとのアナウンスがあったのは年の瀬も押し詰まった昨年12月28日。新型コロナ禍で宿泊客や宴会・ウエディング需要が大幅に減少した。経費削減や収支改善に努めてきたが、財務状況のさらなる悪化を食い止め、事業継続に関する検証を行う必要があると判断したとしている。状況を見極めながら、再開時期を探る。

一部のレストランなどに営業時間の変更はあるものの、ホテルは6月末まで通常通り営業する。しかし、火が消えたかのような、たたずまいとなっているのが実情だ。ホテル正面は以前なら客待ちのタクシーが列を作っていたが、今は皆無といっていい。

ドラフト会議、金大中事件の舞台にも

ホテルグランドパレスで思い出されるのはプロ野球のドラフト会議。プリンス系ホテルに会場が移るまで、1976年から1988年にかけて13年連続で場所を提供した。1965年に始まったドラフトだが、コロナ禍で56回目にして昨年初のオンライン開催となった。

もう一つは開業翌年の1973年に起きた「金大中事件」だ。韓国の野党指導者で後に大統領になる金大中(キム・デジュン)氏が誘拐された歴史的事件の現場となった。

九段下の交差点にある旧九段会館は建て替え工事の最中。城郭風の建築様式を特徴とする名建築(1934年に完成)だが、2011年の東日本大震災による天井崩落事故で廃業。建て替えでは旧九段会館の一部が保存される。

旧「九段会館」は建て替え工事で一部が保存される(撮影2021年2月3日)

ランドマークとして去就はどうなる

九段付近にはかつて太陽神戸銀行(さくら銀行を経て、現三井住友フィナンシャルグループ)、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の大手銀行の本店があった。終戦直後から約60年にわたり本社を構えた日刊工業新聞社も2004年に中央区内に移転し、主要企業の顔ぶれも大きく変わった。

コロナ禍の逆風下、急浮上した今回のホテルグランドパレスの去就。「コロナ後」が見通せない中、将来的な営業再開を巡っては悲観論も漂うが、九段を象徴するランドマークの一つとして存続への期待は大きい。

文:M&A Online編集部