岸田首相が、衆議院の予算委員会の質疑にたいして「育児休業中の人たちにリスキリングを後押しする」といった答弁をしてちょっとした炎上になったのをご存じでしょうか。
この発言に対して、共産党の小池晃書記局長は「子育てに格闘している時にそんなことができるわけがない」と述べ、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は「育休中にリスキリングをしろと。がっくりした」と発言したとのことでした。
また、自民党の茂木敏充幹事長は「子育てがキャリアにマイナスにならないようにという話をした。仕事をしなさいなんて言ってない」と反論し、自民党の大家敏志氏は27日の参院本会議の代表質問で「産休・育休中のリスキリングでスキルを身につけたり学位を取ったりする人を支援できれば、キャリアアップが可能になることも考えられる」と主張したとのことでした。(2023年1月29日 日本経済新聞より)
女性議員が少ないということがこの辺りに影響を与えているような気がしました。
子育てと仕事をしてきた私の周りの女性たちからすると、「子育て自体が一番のリスキリングで、その後の仕事に多いに役に立った」という視点が抜けているように思います。
私は、育児休暇及びその後の育児と仕事の両立を進めていく中で、
・コントロールが不能な状況を抱えながら物事を前に進めていく力
・多くの事象から優先順位を付けて取捨選択をしていく力
・様々な人達とコミュニケーションを取りながら支援を取り付けやり遂げる力
・マルチタスクをコントロールする力
・自分以外ができることを任せる力
が格段に身に付いて、生産性は大きく向上しました。
これは、選択を間違うと命にも関わるという緊張感を持ちながら日々暮らしていく中で身に付いたスキルだと思います。
子育て自体が壮大なリスキリングです。そもそもキャリアにマイナスになるようなことなんて何もないはずです。2022年に厚生労働省が発表した最新のデータによると、女性の育児休業取得率は85.1%で、それに対し、男性の育児休業取得率は13.97%だそうです。多くの男性がリスキリングの機会を逃しているのかもしれません。
「育児に参加しないなんて、それで仕事ができるわけないじゃん」という空気が社内に行きわたるぐらいになると面白いですよね。
女性活躍のために各企業様々な取り組みを実施されていると思います。例えば女性管理職比率や女性の採用比率、男性の育児休暇比率などをKPIとしている企業が多いと思いますが、もう少し思い切った施策として伊藤忠商事株式会社が実施してしる女性活躍の取組が一歩踏み込んでいて、そして数値として結果を出している点が興味深いためご紹介をします。
伊藤忠商事では、2021年10月から取締役会の任意諮問委員会として「女性活躍推進委員会」を設置し、「役職登用・役職候補者の育成」「キャリアや働き方の多様性」について議論を重ねてきたそうです。
その結果として、女性役職者の登用数の増加(2021年4月35名→2022年4月46名)となったことに加えて、2010年以降進めている朝型勤務の進化により、同社における期間合計特殊出生率が、朝型勤務体制を敷いた2013年以降上昇して2021年度には、1.97となったとの開示がありました(伊藤忠商事HP 2022年4月9日リリースより)。
個別の企業が出生率をKPIに掲げて、それを開示し続けるというのは賛否両論もあるとは思いますが、少子化という社会問題に対して企業が正面から捉えてごまかさずに対応している様が見て取れます。
社内の出生率が上がり、結果として社内に子どもを持つ人が増えてくれば、キャリアと両立させていくための取組も自ずと充実してくるものです。同社は、2022年5月より出産・育児のピークである30-40代のキャリア継続支援が重要と考え、「働き方改革」第2ステージとして、「20時以降、原則残業禁止」「8時以前の朝型勤務」に加え、「15時以降の早帰り」を認める「朝型フレックスタイム制度」、全社員を対象とした「在宅勤務制度」も導入されたとのことです。これにより男女にかかわらず育児参加ができるようになるでしょう。そしてこのような取り組みは、今後は記述情報として有価証券報告書に開示されていきますし、統合報告書でも様々な情報が開示されています。
ちなみに伊藤忠商事は、2022年2月22日に年金積立金管理運用独立法人(GPIF)が公表した優れた統合報告書として、一番多くの運用機関から「優れている」という評価を受けた会社としても記載されています。
このような施策を反映してか、伊藤忠商事の就職企業人気ランキングでは様々な調査で常に上位にランクインをしています。すぐれた取り組みがわかりやすい開示にもつながり、そして人材獲得にも大変貢献しているという好循環が生まれていそうです。