そうした歴史的に複雑な経緯もあり、クリミアが歴史的経緯から見てウクライナ領かどうかは、欧米諸国でも議論が分かれる。ミリー議長がウクライナに「当面はクリミア問題を棚上げにしろ」と説得するのも、単なる「妥協」と言い切れない。
現実的な「落とし所」はミンスク合意に加えて、ウクライナのNATO加盟を認める代わりにクリミアの帰属問題を先送りにすることだろう。ロシアは安全保障上の脅威になるとしてウクライナのNATO加盟は絶対に認めなかったが、ここまで戦況が悪化すれば早期終戦のためにギリギリ妥協できる範囲かもしれない。
ウクライナにとってはNATOに加盟することで、ロシアが第3次世界大戦の開戦を決意しない限り、二度と軍事侵攻を受けるリスクはなくなる。とは言え、勝ち戦を打ち切るのは負け戦を終わらせるより難しい。日露戦争後のポーツマス条約で日本は北緯50度以南の樺太割譲や遼東半島の租借権移譲を勝ち取ったものの、ロシアから賠償金を得られなかったとして世論は猛反発。日比谷焼打事件などの暴動が起こり、第1次桂内閣が総辞職に追い込まれた。
ゼレンスキー大統領もクリミア奪還を棚上げすれば、間違いなくウクライナ世論の猛反発を受ける。だが、紛争が長期化してロシア軍が再び攻勢に出れば、「なぜ、戦況が有利なうちに和平交渉をしなかったのか」と批判されることになるだろう。ウクライナには「政治」ではなく「歴史」という観点からの英断が求められている。
文:M&A Online編集部
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