政府の「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田文雄首相)は、10月中に政府が策定する総合経済対策に反映させる重点事項を取りまとめた。スタートアップの起業促進のほか、事業再構築のための私的整理法制整備、M&Aを活用する特別買収目的会社(SPAC)の導入検討などを盛り込んだ。
スタートアップの起業促進では、ベンチャーキャピタル(VC)に対する中小企業基盤整備機構(中小機構)の出資機能を拡充。過去4年間で1,200億円規模のファンドを通じてスタートアップに投資してきた産業革新投資機構も従来規模を上回るファンドを立ち上げ、現在は2034年までの運用期限を2050年に延長する法改正を行って出資機能を強化する。
また、2023年度税制改正に向けて、スタートアップへの投資を促す優遇税制を検討。スタートアップについて、ストックオプション税制の権利行使期間の延長も模索する。スタートアップの成長に資するオープンイノベーション促進税制は、既存発行株式への投資も対象にする制度の在り方を論議する。
来年度の税制改正をにらんでは、大企業がM&Aでスタートアップの過半の株式を取得した場合などに取得価額の一定割合を法人税の課税所得から控除する案が政府内で浮上。これらの支援強化が実現すれば、新規株式公開(IPO)による資金調達やM&Aを通じて傘下に入った大企業の経営資源を活用した事業の拡大もしやすくなる。
また、M&Aなどを経た事業再構築を容易にするため、債権者の多数決決議と裁判所の認可により私的整理(債務整理)ができるよう、事業再構築のための私的整理円滑化法案を次期通常国会に提出することを検討。事業承継時のネックにもなっている経営者保証に依存しない融資慣行を確立するための施策も、関係省庁が2022年中に取りまとめる。
さらに、米国などで導入されている特別買収目的会社(SPAC)の解禁に向けた作業も本格化する見通し。SPACは上場後に株式市場から調達した資金で未公開会社を買収するために設立される法人で、国際金融市場の動向も踏まえ、買収が成立しなかった場合の資金返還など投資家保護に配慮した制度設計を進める。
このほか、中小企業の事業再構築補助金と、事業承継・引継ぎ補助金など生産性革命推進事業の4補助金について、賃上げを条件とした補助内容の抜本的な拡充を図る。
重点事項は6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」のうち、早期に実施する必要がある取り組みを集約。3年間で4,000億円規模としていた施策パッケージを拡充する方向となっている。
岸田首相は10月5日の経済財政諮問会議で予算、税制、規制・制度改革を総合的に進める対策の取りまとめを山際大志郎内閣府特命担当大臣(経済財政政策)に指示。総合経済対策の規模は明らかになっていないが、物価高騰や急激な円安が進む中、自民党内からは30兆円以上の財政出動を求める声も上がっている。
文:M&A Online編集部