[28日 ロイター] - 米企業家イーロン・マスク氏によるツイッターの買収により、中間選挙を11月8日に控えた米国で選挙に関する大量の誤情報が解き放たれるのではないか、との懸念が生じている。
電気自動車(EV)大手・テスラの最高経営責任者(CEO)であるマスク氏は、言論の自由の「絶対主義者」を自称し、ツイッター上の言論規制を緩めると宣言している。ツイッターはここ数年、危険な偽情報、もしくは差別的投稿と見なされるコンテンツの制限に力を入れてきた。
マスク氏は27日、ツイッターの広告主らに対する文章で「何もかも自由で、無責任に何でも言える地獄のような場所にはなりようがない」と表明。「非常に多様な見解を持つコンテンツモデレーション(投稿監視)評議会」を設置すると発表し、懸念の払拭に努めた。
だが、マスク氏はこれまで、ツイッターがトランプ前大統領のような人物のアカウントを恒久的に凍結したことに疑問を呈してきた。トランプ氏のアカウント凍結は、同氏支持者らが2021年1月6日に米連邦議会議事堂を襲撃した直後に行われた。トランプ氏はツイッターを使い、20年の米大統領選は大規模な不正によってバイデン氏が勝利したという虚偽の主張を行っていた。
マスク氏は過去に、ツイッターの投稿監視方針も批判していた。同氏が計画する大規模な人員削減により、ツイッターは投稿監視の能力をそがれる恐れもある。
マスク氏は27日の買収完了後、「鳥は放たれた」と投稿した。
ツイッターの投稿監視が緩くなることで、中間選挙に向けた政治情勢にどの程度の影響が及ぶかは定かでない。多くの州では既に期日前投票が始まっており、世論調査によると大半の有権者は、既に投票先を決めている。
一部の候補者が選挙結果を受け入れず、不正が行われたと叫ぶような事態になれば、ツイッターが偽情報の増幅に手を貸す恐れがある。
共和党側は、多くのソーシャルメディア・プラットフォームが民主党寄りに偏っていると主張してきた。共和党の政治家を含む多くの保守系アカウントは28日、マスク氏の買収を歓迎するツイートを行った。
民主党側は、ツイッターが規制しなくなれば、トランプ氏支持者らが極右的見解や選挙不正に関する偽情報をどんどん投稿するようになると懸念している。
ツイッターは、何年も前から政治的主張を展開するツールとして主要な役割を果たしてきた。しかし、誤情報や意図的な偽情報の拡散に手を貸し、民主主義の原則を損なうとともに、国外からの選挙介入手段を提供してきたとの批判も同時にある。
無党派の公益組織、コモン・コーズのディレクター、ヨセフ・ゲタチュー氏は「(マスク氏の買収により)誤情報の発信主体による有害な情報の拡散回路がずっと広くなるのは間違いないだろう」と懸念。「投稿監視の方針があっても、それを執行する人々がおり、執行を担保するシステムがなければ実効性を持たない。方針がないがしろにされるようなら、信じられないほど有害な事態になるだろう」と述べた。
<トランプ氏の動向>
トランプ氏はツイッター・アカウントを凍結された後、自身でソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を立ち上げており、復活を許されてもツイッターには戻らないと表明している。同氏は28日朝、トゥルースで440万人のフォロワーに向け、ツイッターを含む全てのプラットフォームよりもトゥルースの方が「大きい数字」を持っていると胸を張った。
「ツイッターが正気な人の手に入り、わが国を心底憎む、気のふれた極左によって運営されなくなったことは非常にうれしい」とし、「私は真実を愛する」と付け加えた。
ロシアがソーシャルメディアを使って介入したとされる2016年の米大統領選後、ツイッターなどは誤情報の拡散防止対策を強化したが、その成果はまちまちだ。
2020年の米大統領選後、ツイッターはトランプ氏だけでなく、大規模な選挙不正があったという同氏の主張に同調する盟友などのアカウントも恒久的に凍結した。極右団体「プラウド・ボーイズ」や、陰謀論を展開する集団「Qアノン」に関係する数千のアカウントも削除した。
だが、専門家の間からは、誤情報の数の膨大さやその拡散の速さに照らすと、こうした対策は十分ではないとの指摘もある。ツイッターはスパム(迷惑)アカウントや、ボットと呼ばれる実態の乏しいアカウントを減らすことよりも、ユーザー数の伸びを優先したという内部告発が今年あり、同社はこれを否定した。
保守派は、ツイッターが政治的理由で保守派の見解を検閲していると批判し、同社は否定している。
1月に新型コロナウイルスに関する偽情報拡散でツイッターの個人アカウントを恒久凍結されたトランプ氏側近のマージョリー・テーラー・グリーン下院議員(共和党)は27日、議員としての公式アカウントで「言論の自由」とツイートした。
反ユダヤ主義的な投稿をして凍結された米人気ラッパー、カニエ・ウェストさんのツイッター・アカウントは、28日に復活した模様だ。
(Joseph Ax記者)