ゴーン氏がマクロン大統領の意向に沿わなかったのは当然だ。政権の「人気取り」に付き合ったばかりに日産の業績が落ち込むようなことがあれば、自らの経営者としての評価にかかわる。だからゴーン氏はフランス政府の「日産吸収合併構想」には易々と乗らなかった。
しびれを切らしたマクロン氏は経済・産業・デジタル相だった2014年に、ルノーに対する政府の持ち株比率を20%へ引き上げ(2017年に一部を売却し、現在の持ち株比率は15%に戻っている)、日産との経営統合を迫った。
これに対してゴーン氏は日産がルノー株の追加取得で出資比率を25%以上にすると、ルノーが保有する日産株の議決権を失う日本の会社法を利用して経営統合を阻止する構えをみせて、事態は膠着。
2015年12月に、両者の間で事実上の和解が成立。その際にルノーの許可がなければ認められなかった同社への出資引き上げが、「日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合」は独自の判断で可能になった。
とはいえ、ルノーが日産株の43%を保有する最大株主であることは変わらない。ゴーン氏逮捕を受けてマクロン大統領は「株主である国は、連合の安定を極めて注意深く見守っていく」、ブリュノ・ル・メール経済・財務大臣も「国の最大の懸念はルノー・日産連合の強化」とする公式声明を発表している。
フランス政府の「日産吸収合併」戦略は、何ら変わっていないのだ。「ルノーが送り込んだゴーン氏が前代未聞のスキャンダルを起こした以上、フランス側から経営統合を強く求めることはないだろう」との予想は甘い。