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企業法務弁護士が語る「不動産M&A」の実務
買主にとっての不動産M&Aのポイントは、対象会社株式の取得にあたって、実質的な買収ターゲットとなる対象不動産のみを所有し、それ以外の資産や契約関係を一切存在しない「ピュアな資産管理会社」をいかに作り上げるかということであろう。
「不動産M&A」「店舗M&A」「サイトM&A」・・・といった用語をインターネットでよく見かけるようになりました。企業同士が売買をするのですから、「M&A」はー種の売買契約のようにも思えます。こうした不動産やサイトなどの「売買」と「M&A」とではいったい何が違うのか、疑問に思いませんか?
このコラムでは、「M&A」と「売買取引」の違いを解説します。
まずは「M&A」の意味からおさらいしましょう。Mは Mergers(合併)、Aは Acquisitions(買収)の略です。つまり、「合併と買収」を指します。
経済的な観念で捉えると、ある企業がある企業を買うという縦方向の関係が成立するのが「買収」、企業が横方向で対等にくっつくのが「合併」です。
M&Aとは、企業の「経営権」を売り買いすること。つまり、企業を運営する際の「意思決定権」を売買するということです。ある企業の人事権を欲しいと思ったら、お金で買うわけです。
不動産やサイトの売買と企業のM&Aでは、まず「取引対象」が異なります。不動産などの売買では、売られる対象となるのは一方の当事者が所有する「物」です。たとえば不動産売買であれば「不動産」という所有物ですし、サイト売買なら「ウェブサイト」という所有物です。契約当事者自身が身売りするわけではありません。
一方M&Aの場合、売り手は「契約当事者自身(あるいはその一部)」を売ります。株式や事業を全部売却したら、売り手の企業がこの世から無くなることになります。
M&A手法で一般的な「株式譲渡」は、経営者などが所有する株式を売却するので一般の売買の形に近くはなりますが、それでも「企業自身を売る」ということに主眼を置かれており、やはり不動産などとは異なる特有の契約形態と言えるでしょう。
以上のように、売買取引の対象が「単なる所有物」か「自分自身(企業自身か)」という点で違いがあります。
不動産やサイトなどの売買の場合、売買取引を行ったからといって「売り手が消滅する」ことはありません。不動産やサイトを売却した後も、売り主は普通に存続して会社経営や日常生活を続けるでしょう。
M&Aでは、株式を全部売却すると企業は消滅しますし、株式の一部を売却すれば経営の自由度が下がります。
例えば、法人が不動産やサイトの売買をするケースを考えてみましょう。この場合、単に所有する財産を売るだけなので、一時的な利益は生じるかもしれませんが、経営権に影響は及びません。一方でM&Aを行うと、企業の経営権を売却、すなわち経営権が移譲されることになります。
不動産やサイトなどの取引は、すべて民法上の「売買契約」という種類の契約です。これに対しM&Aの場合、必ずしも売買契約とは限りません。合併や会社分割、株式交換、株式移転などといった手法は、会社法上の「組織再編行為(企業の組織形態を変える方法)」にあたります。
このように、売買以外の取引形態になってくると、一般の売買契約とM&Aの類似点を探す方が難しくなってきます。
これは感覚的な問題ですが、一般の売買取引とM&Aとでは、手続きの流れや複雑さが異なります。サイト売買の場合、サイト価値を査定して金額を調整し、売却金額を定めて売却を行います。不動産の場合もだいたい同じ流れです。
ところがM&Aの場合は、まずはトップ面談を行ってお互いにM&Aに進むことを合意し、スキームを選択して基本合意を交わしてデューデリジェンスを実施し、全貌を把握した上でようやく成立となります。
従って、M&Aを実行する際には当初から専門アドバイザーが関与しますし、税理士、弁護士、公認会計士などの各種専門家の力を借りながら進めていく必要があります。
最近では「個人M&A」といわれるサラリーマンが小規模な企業を買うケースも出ており、M&Aのハードルが下がった印象をお持ちの方もいるかもしれません。それでも通常の売買取引と比べて、M&Aは専門性の高い手続きと言えるでしょう。
文:M&A Online編集部
これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。
買主にとっての不動産M&Aのポイントは、対象会社株式の取得にあたって、実質的な買収ターゲットとなる対象不動産のみを所有し、それ以外の資産や契約関係を一切存在しない「ピュアな資産管理会社」をいかに作り上げるかということであろう。