一神教と疫病とコーポレートファイナンスⅨ│間違いだらけのコーポレートガバナンス(22)

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スペイン・バルセロナのコロンブス像

借金を踏み倒し、財産を搾り取って放り出す

    そして、このユダヤ人追放令には、もう一つの大きな狙いがあった。ユダヤ教徒の財産の略奪である。追放令には以下のように記されていたという。(出典:同上)

    • 7月31日までは、ユダヤ教徒はその財産や所有物を自由に処分してよい。
    • 改宗せずスペイン王国を離れるものは、金、銀、武器、馬、「以外」のものは、すべて自由に持って行って良い。

    所有する財産は換金してもいいが、金や銀は持って行ってはいけない。これは要するに、実質的な財産は、何も持たずに出ていけといっているに等しい。そしてもう一つ重要なのは、ユダヤ教徒のキリスト教徒に対する貸付債権も、当然すべて帳消しになるということだ。債権を放棄させ、財産も持たせず、着の身着のままで叩き出す。

    これが、1000年近くに渡ってギリギリの共存を目指し、職能(プロフェッショナリティ)と財産でキリスト教国家に貢献してきたユダヤ教徒に対する、スペインキリスト教社会のファイナルアンサーだった。このような苛烈な決断がなされた背景に、ペストの度重なる恐怖に打ちのめされ、荒廃した人心を見るのは筆者だけだろうか。

    この突然の追放令が、ユダヤ教徒社会に与えた影響は計り知れない。紀元前後に起きたファーストディアスポラで古代イスラエル王国の地から追われ、イベリア半島に移り住んできたユダヤ教徒たち。彼らはキリスト教徒とイスラム教徒の争いに翻弄されながらも、持ち前のフツバ―の精神(不撓不屈の精神)で、ギリギリの共存を目指し、その職能と財産でイベリア半島の国家に貢献してきた。

    彼らは、そうした歴史に誇りさえ持ち、自らをスファラディユダヤ人(スペインのユダヤ人)と称した。しかし、そうしたスファラディの誇りや、共存への希望のすべては、この追放令で打ち砕かれることになる。歴史を振り返ってみたとき、この追放令はスペインという国家にとって「未来の喪失」にほかならないように見える。

    ユダヤ人追放により、スペインは国家を運営する財政や金融をはじめとする重要なノウハウ、そして天文学、地図学、航海術、医学、薬学などの最新の技術や知識をリバイスできなくなったと考えられる。そして、長期的に見て弱体化していく引き金になった。そう感じざるを得ない。

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    2021/09/25

    1347年に欧州に上陸したペストは、ほどなく南欧イベリア半島に到達する。そして欧州各地で繰り広げられた惨劇が、この地でもまた繰り返される。ユダヤ教徒は隔離されたゲットーで生活し、衛生面や食事面でユダヤ教の厳しい戒律(コーシャ)を守っていた。