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「会社は誰のものか 事件から考えるコーポレート・ガバナンス」|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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会社は誰のものか 経済事件から考えるコーポレート・ガバナンス 加藤 裕則 著 彩流社 刊

コーポレート・ガバナンスの重要性が指摘されて久しいが、相変わらずガバナンス不全による企業不祥事が後を絶たない。本書ではオリンパスや東芝、日産自動車、関西電力、SUBARUといった有名企業の不祥事を引き起こした「社内事情」について詳しく伝えている。

会社は誰のものか

著者は朝日新聞社の経済記者だけに、単なる「法律論」や「会計論」ではなく、経営者や従業員、公認会計士など不祥事にかかわった人間たちの生々しい動きが伝わってくる1冊だ。読後感としては「結局、企業不祥事は止められない」とのあきらめに近い。

本書は「会社は誰のものか」との問いを立て、自動車や航空機の部品を手がけるアイコクアルファ(愛知県稲沢市)の取り組みから「みんなのもの」との結論を導き出す。

しかし、「みんなのもの」という主観的な「ものさし」は極めて脆(もろ)い。本書で取り上げられたほとんどの人物が「みんな」のために不祥事に手を染めたからだ。

本書では不正を指摘し、オリンパス社長の座を追われたマイケル・ウッドフォード氏が取締役会で「個人的な利益を得た人は誰もいない」と、日本人取締役と和解に動いたように見えた時期もあったとの興味深いエピソードが紹介されている。

特にオリンパスのように長年にわたる粉飾決算を隠蔽しているケースでは、「自らが引き起こしたわけではない」という罪悪感のなさと、従業員や株主、取引先などの「みんな」を守るために穏便にことを収めなくてはならないという責任感から「事実の隠ぺい」という不正を引き起こすのだ。

コーポレート・ガバナンスの原理原則に則り、不正を正す「ハードランディング」を試みたウッドフォード氏は、日本人役員から見れば「みんなのものである会社を、自分の1人の正義感でぶっ壊そうとするよそ者」にしか映らなかっただろう。

本書は「なぜ、こういうことが起こるのか」を明快に説明した良書だ。しかし、「なぜ、こういうことが起こるのか」を説明できることと、「こういうことを起こさないためにどうすればいいのか」を提示することは全くの別物だ。

経営者による不正や不祥事が止まらないのは、こうした企業が何事もなかったかのように今日もなお存在し続けていることが最大の理由である。「なんのかんの言ったって、経営者の首を差し出せば終わり」というのが、経営者のみならず、日本社会のコンセンサスなのだ。

一方、米総合エネルギー取引大手のエンロンや、米大手電気通信事業者のワールドコムは粉飾決算が露見した末に、あっさり経営破綻した。「粉飾決算が露見すれば、そこで息の根を止められる」からこそ、米国では日本よりもコーポレート・ガバナンスが徹底される。

企業自身のコーポレート・ガバナンスによる自浄作用に期待するのは、「百年河清を俟(ま)つ」に等しい。企業とは別の強力な「外部の力」によって、日本を代表する大企業であっても「跡形もなく消し去られる」仕組みがない限り、「みんなのもの」である会社を守るための不正や不祥事を止めることは決してできない。

企業の「良心」などに期待していては、遠からず第2のオリンパスや東芝、日産、関電、SUBARUが登場することになるだろう。(2020年2月発売)

文:M&A Online編集部

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