『事業引継に困らないバトンタッチノート』 |編集部おすすめの1冊
「事業承継についてそろそろ考えようと思っていたけど何から考えればいいのかわからない」「何から始めたらいいのか悩んで取り掛かれなかった」という経営者向けに書かれたのが本書。
数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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保釈中の国外逃亡でまたも話題になった、カルロス・ゴーン前日産自動車<7201>会長。経営者としてのゴーン前会長の軌跡を追い、どこが「失敗」のターニングポイントになったのかを詳しく分析した一冊だ。
単なる「ゴーン批判」ではなく、就任前の日産の問題や、初動のスピード感、部門横断的プロジェクトの導入、コストダウン策、強力なリーダーシップといった就任当初のKFS(成功のカギ)についても丁寧に説明している。
その上で「失敗」について具体的な検証をしているので、内容には説得力がある。過酷なコストダウンの長期化による疲弊や電気自動車(EV)「リーフ」への肩入れ、主力工場である追浜工場の空洞化、ゴーン前会長の独裁者化、そして「不正」を生んだガバナンスの弱さだ。
それぞれの指摘は「その通り」なのだが、物事には「裏」と「表」がある。たとえば「リーフに肩入れするあまりハイブリッド車(HV)で出遅れた」と著者は主張するが、リーフがあればこそEVに構造が近いシリーズ方式HVの「NOTE e-POWER」が生まれ、トヨタのHV「プリウス」や「アクア」と互角以上の勝負ができた。トヨタ同様に早くからHVに力を入れてきたホンダが後れをとっているのとは対照的だ。
独裁者化やガバナンスの弱さもゴーン時代以前の日産でも見られた企業体質であり、同社の構造的な問題だ。もちろんゴーン前会長には、そうした企業体質を改められなかったどころか、それに乗っかってしまったという責任はある。ただ、ルノーと日産が「白紙委任」で全権をゴーン前会長に与えたことが原因という指摘には疑問符がつく。
著者は結論として「ルノーとの提携を解消すべき」と主張する。日産はその方向でルノーと交渉を進めており、ルノー側も日産株放出に乗り出すとの観測も出ている。ただ、その論拠が「日産にとってルノーからの援助はもはや不要であり、ルノーも日産から十分すぎるくらいのリターンを得ている」というのには疑問が残る。
著者に限らず日本のマスメディアでもよく聞く主張ではあるが、ルノーは日産を「救済した」のではなく、「買収した」のである。そこを取り違えると「ビジネス論」ではなくなってしまう。ましてや外国企業との関係がこじれると、容易にナショナリズムと結びつく。
たとえば米セブン−イレブンは1991年に経営破綻し、2005年にTOB(株式公開買い付け)でセブン&アイグループの完全子会社になった。米セブン−イレブンの業績が回復し「わが社にとってセブン&アイからの援助はもはや不要であり、セブン&アイもわが社から十分すぎるくらいのリターンを得ている」と資本関係の解消を要求したら、どうだろう。おそらく、少なからぬ国内マスメディアは「ムシのいいことを言うな!」と反論するだろう。
「ゴーン批判」が感情的なナショナリズムに利用される「危うさ」には十分注意しておきたい。(2019年11月発売)
文:M&A Online編集部
「事業承継についてそろそろ考えようと思っていたけど何から考えればいいのかわからない」「何から始めたらいいのか悩んで取り掛かれなかった」という経営者向けに書かれたのが本書。