数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。
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日本の大手新聞が外資のメディア企業に買収される。ひと昔前であれば、一笑に付されたに違いない。大型の企業買収や経営統合はニュースの主役として新聞紙上をにぎわせる。その新聞社がM&Aを伝える側から一転し、M&Aの当事者になる…。
本書「社長室の冬」は「警察回りの夏」「蛮政の秋」に続くメディア3部作の完結編。日本を代表する巨大新聞社の一つ、日本新報社の南康祐記者を主人公とする。とある理由で編集局から社長室に異動させられた南は、あろうことか自分が勤務する新聞社の身売り話の渦中に放り込まれる。
日本新報社は販売部数の減少で経営危機に陥っていた。社長の小寺政夫は生き残りのため、ニュース専門サイトを運営する米AMCへの売却を進めていたが、執務中に倒れ、急死するという衝撃的な場面から物語は始まる。
数カ月前に九州に左遷されたばかりの前東京本社編集局長の新里明が急きょ社長に就任し、売却交渉を引き継ぐ。南は社長の“名代”に指名され、買収劇や社内抗争の矢面の立つ。
AMC側が買収条件として提示したのは、紙媒体の発行停止と電子版への全面移行。紙の新聞をやめれば、印刷・発送部門や販売店網は不要になる。大規模な人員削減は避けられない。「新報」のブランドが残るにせよ、事実上の廃刊に等しい。新報社側は3年間の猶予を求める。
交渉相手のAMCジャパン社長の青木聡太は元日本新報社記者。20年ほど前、海外特派員の内示が反故となり、新設のメディア部門に異動させられたことから辞表を出した過去を持つ。
南の同期は会社に見切りをつけ、ライバル紙に転じる者も。反対姿勢を強める組合。そして新報社の創業家であり、筆頭株主は与党大物政治家と組んで売却阻止を画策する。
推進か、それとも決裂か? 難航する条件交渉の末、新聞社側が最終的に出した結論とは。
ネットが全盛期を迎える中、歴史的な部数減に直面する現下の新聞業界。M&Aを通じた業界再編がいつ起きてもおかしくない状況にあるだけに、よりタイムリーに感じられる。(2019年12月発売)
文:M&A Online編集部
事業承継の一つの手段としてM&Aが活用されるケースが増えてきた。会社を他人の手に委ねるM&Aを「会社の終活」と捉え、何から手を着け、どこに相談すればよいのかといった基本的な事項をまとめたのが本書。