資金調達の“壁"を打ち破るライツ・オファリングメソッド

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「資金調達の“壁"を打ち破るライツ・オファリングメソッド」スモールカンパニーの成長戦略
細谷佳津年、ライツ・オファリング取材班 著 日経BP刊

ライツ・オファリングとは株主に対する新株予約権の無償割当を利用した増資方法をいう。株主は予約権を行使し新株を受け取ることも、その権利を市場売却することもできる。ところが、エクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)の世界で“市民権”を得ているとは言い難い。3700社を超える上場企業がありながら、累計の実施例は2018年末時点で32件に過ぎない。

そんな中、1社で3度のライツ・オファリングに取り組んだのが賃貸マンション、テナントビルなど収益不動産の販売を手がけるエー・ディー・ワークス(東証1部)。毎回手を変え品を変え、試行錯誤の連続だったという。CFO(最高財務責任者)として陣頭指揮した著者がライツ・オファリングに踏み切った理由や経緯、日本におけるライツ・オファリングの問題点や今後のあるべき姿について書き留めた。

ライツ・オファリングの最大のメリットは資金調達額に上限がない点。公募増資だと通常、時価総額の2割程度なのに対し、4~5割に相当する増資も可能。上手に使えば、時価総額が小さな企業や株式の流動性が低い会社でも大規模な資金調達の道が開ける。

事実、エー・ディー・ワークスは2012年、時価総額が10億円程度にもかかわらず、5億円を調達した。2010年のタカラレーベンに続くライツ・オファリングの第2号だった。当時、エー・ディー・ワークスはリーマンショック後の不動産不況を乗り切るために資本増強が喫緊の課題。2013年には再度のライツ・オファリングを実施した。

ライツ・オファリングは2013年15件、2014年11件と2ケタ台で推移し、普及が期待されたが、一転、急ブレーキがかかった。

債務超過や赤字に陥った企業の利用が広がり、「業績不振企業が行う増資手法」という悪評とともに、企業側が発行に二の足を踏むようになったのだ。債務超過企業の利用を禁止するなどの制度改正があったものの、2015年1月の案件を最後に2年以上も事例が途絶えた。

そうした逆風下、2017年4月に同社として第3回のライツ・オファリングを公表した。しかも常識破りのスキーム。国内で初めて、行使価額を時価と同額とする「ノンディスカウント」に挑んだのだ。

新株予約権の行使を促すために、行使価額を時価よりもディスカウント(割り引く)するのが一般的だが、株主は割安で新株を取得できる半面、株価下落を代償として受け入れなければならない。ノンディスカウントとすることで、こうした将来的な株価下落という予想の排除を目指した。狙いはずばり的中し、予約権の売買がマネーゲーム化するおまけもついたという。

著者はライツ・オファリングの現場を最も知る人物。体験的かつ実践的な一冊だ。(2019年4月発売)

文:M&A Online編集部

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