数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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敵対的な企業買収の実態を広く世間に知らしめた、経済小説家・清水一行氏の代表作の一つ。すでに刊行から30年近く経っており、内容については広く知られている名著なので、ここでは小説のモデルとなった買収事件を紹介する。

敵対的買収(角川文庫)

主人公が在籍する「協和精工」のモデルは三協精機製作所。1946年に長野県下諏訪町で操業し、オルゴール製造で業績を伸ばした。最盛期には世界のオルゴール市場シェアの80%を占めるニッチトップ企業だった。その後、オルゴールで培った精密加工技術を生かして小型モーターや磁気ヘッド、光ピックアップ、カードリーダーなどに参入し、部品メーカーとして成長する。1962年には東京証券取引所1部に上場した。

同社に敵対的買収を仕掛ける「リミテッド・ベア」のモデルは長野県御代田町に本社を置くミネベア(現・ミネベアミツミ)<6479>だ。ミネベアは小径・ミニチュアサイズのボールベアリングでは世界首位のメーカー。創業者の父親から経営を引き継いだ2代目社長の高橋高見氏が、社業を拡大するために1970年代から積極的なM&Aに乗り出す。

1974年に新興通信工業、1975年に米IMC Magnetics Corp、東京螺子製作所、新中央工業、大阪車輪製造、米Hansen Manufacturing Co,Inc、1978年に北斗音響、ハタ通信機製作所、1979年に帝国ダイカスト工業を相次いで買収。一連のM&Aで大きく成長した。

ところが1983年に蛇の目ミシン工業<6445>に日本初の敵対的TOBを仕掛けたが、田中角栄元首相と関係が深かった国際興業グループ創業者・小佐野賢治氏の妨害で失敗。初の挫折を味わった高橋氏は1985年に三協精機への敵対的TOBを断行するも、ミネベアが米投資会社から逆にTOBを仕掛けられて買収どころではなくなる。この一連の騒動が本書のストーリーだ。

この敵対的買収の失敗でミネベアはM&Aによる成長戦略を断念し、本業回帰に方向転換した。が、2009年にFDK<6955>のステッピングモータ事業を譲受したのを皮切りにM&Aを再開。2010年に子会社のミネベアモータを通じてパナソニック<6752>の情報モータ事業を譲受、2015年に独計測機器大手Sartorius Mechatronics T&H GmbHを買収、2017年にミツミ電機を株式交換で完全子会社化して経営統合し、現在の「ミネベアミツミ」に社名変更した。2019年4月にはユーシンをTOBで子会社化している。

一方、敵対的TOBから逃れた三協精機製作所は業績が低迷し、2003年に日本電産<6594>の傘下に入り、2005年には現在の「日本電産サンキョー」に社名変更した。2012年に日本電産の完全子会社となった。2014年に三菱マテリアル<5711>の子会社である三菱マテリアルシーエムアイ(現・日本電産サンキョーシーエムイ)を買収するなど、自らも企業買収に乗り出している。

文:M&A Online編集部