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『噂の安全車ー合併人事』|編集部おすすめの1冊

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数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「噂の安全車ー合併人事」清水一行(徳間文庫)

清水一行氏は実際に起きた経済事件や実在の人物をモデルに企業の実態を描く経済小説家として有名だが、事件については全くのフィクションである。ただ、取り上げられた自動車業界の背景や技術は実在する。

主役の柳田直道は、中堅自動車メーカー・シバ自動車の宣伝部係長。1976年に施行される米マスキー法(1970年大気浄化法改正法)規制を、新開発のリーンバーン(希薄燃焼により有害物質の発生を抑える)エンジンでクリアし、先進衝突防止装置も備えた無公害安全車「アポロ1200」の「ノンストップ全国縦断20周・10万キロ公開テストキャンペーン」を仕掛ける。

ところがキャンペーン最終日、真夜中の国道で人身事故を起こしてしまう。しかも、被害者は即死。事故が明るみに出れば、「アポロ1200」のイメージダウンは避けられない。おりしもシバ自動車には業界大手の北星自動車に吸収合併されるとの噂があり、「アポロ1200」はシバ自動車が自主独立を保つ「切り札」となる期待の新型車だ。

目撃者がいないのを幸いに、柳田はとっさの判断で被害者の死体を隠して何事もなかったかのようにキャンペーン走行を再開させる。ところが柳田が数時間後に現場へ戻ってみると、隠したはずの死体は忽然と消えていた。事故を起こしたキャンペーン車両にも人をはねた形跡がない。不可解な事態に混乱するシバ自動車宣伝部。

そこに死体を隠そうとしている柳田たちの姿を撮影した写真が届く。脅迫電話をかけてきた写真の送り主との交渉場所で柳田が目にしたのは、見ず知らずの男性の刺殺死体だった…。なぜ交通事故の死体が消えたのか?殺された写真の送り主は誰か?なぜ殺されなければならなったのか?柳田は懇意にしている夕刊紙経済記者の炭村悦二と共に、事件の真実を解明していく。

合併人事

次第に明らかになる深層。そこには合併をめぐる企業同士の駆け引きやサラリーマンの保身と出世欲、社員の献身的だが独善的な愛社精神、どん底から這い上がろうとする者たちの野心と陰謀、そして組織の裏切りが蠢(うごめ)いていた。ありきたりの筋書きだが、ぐいぐい引き込まれるストーリー展開は、さすがは清水一行である。

ラスト16ページの「大どんでん返し」で全ての「謎」と「黒幕」は解明されるが、ふたを開けてみれば「ほんのいたずら」程度の妨害工作が、柳田のとっさの隠ぺいをきっかけに3件の殺人事件と大手自動車メーカーの大スキャンダルを生んでしまう。そして柳田の目前で起こるシバ自動車の「衝撃の結末」。本書を読み終えた読者は主人公の柳田同様、何とも言えないやるせなさを感じるだろう。(1981年2月発売)

文:M&A Online編集部

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