数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識や教養として役立つ本も紹介する。

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『日本一わかりやすい海外M&A入門』杉山 仁 著   金融財政事情研究会 刊

日本経済の成熟化や少子高齢化などで国内市場が縮小に向かう中、海外M&Aが成長戦略の有力な手段として定着しつつある。とはいえ、一部の大手企業は別として、多くの企業にとって海外M&Aはまれな出来事に違いない。その知識と経験は社内に蓄積されていないか、蓄積されていても少ないのが一般的だろう。

本書は、海外M&Aに初めて取り組む事業会社の経営者と担当者を想定して、海外M&Aの基本的な流れと各ステップの要点を押さえる。

買収候補先選定、バックグラウンド・スクリーニング(背景調査)、フィナンシャル・アドバイザー選任、買収価格試算、アプローチとトップ会談、基本合意締結、デューデリジェンス(買収前精査)、価格と条件交渉、株式譲渡契約書合意と調印、現経営陣との雇用契約調印、公開買い付け、クロージング(株券の移転と登録)、買収後経営と買収目的の実現…。

これらの各ステップについて、筆者が実際に体験した具体例をふんだんに盛り込み、リスク回避策を解説している。筆者は旧三菱銀行(現三菱UFJ銀行)時代、米英に11年間勤務し、海外M&Aに従事。その後、投資ファンドや一般事業会社でも実績を積んだ。

例えば、買い手と売り手の社長の初顔合わせ。海外の売り手は良い条件で売却したいために、買い手に楽観的な業績見通しを伝えたり、買い手を持ち上げて過剰な友好ムードを演出したりして、それに日本の経営陣が乗せられてしまうことがあると指摘する。しかし、こうした大歓迎は買い手から有利な条件を引き出す交渉上のテクニックに過ぎないという。

また、日本企業ではデューデリジェンスの段階まで進むと、経営陣に買収完遂への期待感が高まり、途中で引き返すことが難しくなることがあるという。M&Aの得失を冷静に判断することを忘れ、買収完了が目的化してしまうというのだ。

一見華やかな海外M&Aだが、成功はほんの一握りに過ぎない。筆者の肌感覚だと、成功率は10%程度という。

失敗の一因にあげるのは日本企業と外国企業の交渉姿勢の違い。日本企業は相手を信用し、対等互恵・共存共栄の精神で交渉するが、外国企業は支配・被支配関係を前提に相手企業に対してどうしたら優位に立てるかという姿勢で臨む。

本書はこうした相違を認識することが海外M&Aを成功に導く第一歩だと強調する。 海外M&Aの「実際」を知るうえでも格好の一冊だ。

文:M&A Online編集部